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漫画を選ぶ基準には様々あると思いますが、タイトルや表紙はその中でも重要な位置を占める要素です。今回取り上げる『アニマルハラスメント』もタイトルと表紙のインパクトで購入に踏み切った作品なんですが、蓋を開けてみると想像以上にスゴい作品でした

アニマルハラスメント』の世界では動物が人間と同等の知能と権利を持っています。しかし、見た目はあくまで動物のままなので、彼らの容姿や特徴に起因したハラスメントが度々問題視されており、社会問題にもなっています。本作の舞台は動物への嫌がらせ”アニマルハラスメント“に悩む動物たちの生活を支えるアニマル生活総合支援センター。当然ながら動物たちが抱える様々な悩みや問題が描かれます

アニマルハラスメント』は基本的にコメディなんですが、扱う問題が問題なだけに単なるコメディに留まっていません。本作で描かれるハラスメントは私たちの生きる現代社会にも通底する問題を抉り出しており、完成度の高い社会派コメディ作品にまで昇華されています。今回はそんな『アニマルハラスメント』の魅力をたっぷりお伝えします!

あらすじ

鈴鹿こみちアニマル生活総合支援センターで日々動物たちの様々な相談に乗っている職員。極度のあがり症と人見知りで動物とは自然と会話できるものの、人間相手となると会話がままなりません。ある日、そんな悩みを抱える彼女の下に帰国子女の橘高オリバーが配属されます。

人間相手にうまく会話できないこみちとは対照的にオリバーは相手が人間だろうが動物だろうが歯に衣着せぬ物言いをズバズバ披露。良い意味でも悪い意味でも空気を読まないオリバーの奔放っぷりに、こみちはこれまで以上のストレスを抱えることに

それでもこみちに休息は与えられません。彼女の心労などお構いなしに動物たちは毎日センターを訪れます。オリバーという爆弾を抱えながら、動物たちの悩みを解決するべくこみちは日々奮闘します。頑張れこみち!負けるなこみち!辛くなったらいつでも労基に駆け込め!!

本作の見所

ツッコミ役と問題解決に奮闘する鈴鹿こみち

本作のヒロインは主人公の鈴鹿こみち。レギュラーメンバーはほとんど人間ですが女性は彼女一人しかいません。問題を投げっぱなしジャーマンで押し付けてくる課長の冬虫諭吉や余計な心労を増やす原因となったオリバーなど、周囲には頼りにならない男性ばかり。こう書くとものすごい悲惨な境遇のように思えますが、自然に描かれるコメディタッチな作風がその悲惨さを緩和(?)してくれます

ただ、彼女にも問題がないわけではなく、扱いづらいオリバーの問題をなぁなぁで先送りにしたりとメンタル面の弱さが度々浮き彫りに。ツッコミ役と聞くと切れ味鋭いツッコミが売りのように思えるかもしれませんが、彼女の持ち味はそのメンタル面の弱さから生み出されるごく自然なツッコミ。後述するオリバーのボケに関してもそうなのですが、本作のギャグは作られたコメディではなく、キャラクターのやり取りが結果的にコメディになっているという自然さが面白い!こみちを含めたキャラクターすべてが生き生きと描かれていて、これがフィクションであることを忘れさせてくれるほどの没入感を与えてくれます。

精神的な弱さが特徴のこみちですが、動物たちの問題解決に取り組む際には芯の強さも見せてくれます。センターを訪れた動物たちの相談に親身になって対応し、彼らの苦しみをまるで我が事のように分かち合う彼女の優しさには胸を打たれる場面も……。これも詳しくは後述しますが、ハラスメントという繊細な題材を扱っているにも関わらずコメディとしても成立している本作の類まれなるバランス感覚は彼女のキャラクターによって支えられている部分が大きいですね

人間・動物問わず辛辣な橘高オリバー

オリバーは本作におけるボケ役に当たるキャラクターなんですが、彼の一挙手一投足には私たち読者もこみちと同様に唖然とさせられることが多いです。彼の言動はとにかく辛辣過ぎる!相手が女の子だろうが先輩だろうが課長だろうが相談に来た動物だろうが、建前という言葉を知らぬがごとく本音の刃で一刀両断!それが橘高オリバーという人物です。

そんな性格の持ち主でありながらスイーツ好きというかわいい一面も持っており、オリバーは本作をコメディたらしめている重要なポジションを担っています。恐らく、彼が配属されなければ人付き合いが苦手なこみちが動物たちの問題解決を通じて人間的に成長していくヒューマンドラマになっていたことでしょう。それはそれで面白いと思いますが、『アニマルハラスメント』の大きな魅力はコメディの面白さにもあるので、オリバーという劇薬を放り込んだのはかなりの失策ファインプレーだと思います

と、ここまでオリバーの問題児っぷりを説明しましたが、彼の本質は相手を選ばない対応の平等さにあります。ハラスメントを扱う以上、動物差別をネタにしたギャグは絶対にタブー。その中でオリバーは相手を差別せず誰に対しても辛辣という平等を貫いているため、不快さがありません。そもそも辛辣ではあるものの言動自体は間違ったことをほとんど言っていないため、単なる問題児というわけでもありません。こみち同様、扱うハラスメントの深刻さを保ちながらコメディとしても成り立たせている立役者の一人と言えるでしょう

現代の社会問題に通底するアニマルハラスメント

本作には様々なアニマルハラスメントが登場します。容姿を理由に職場で差別を受けるゴリラ。過保護に育てられすぎたが故に一般常識を身に着けられなかったトイプードル。自分に自信がないため恋愛に踏み切ることができないカバ。こうした動物たちはすべて人間に置き換えても物語が成立します。ゆえに、本作で描かれるのはあくまでアニマルハラスメントなのですが、それによってえぐり出される本質的な問題は我々の生きる現代社会に通底するところがあるのです

アニマルハラスメント』が社会派コメディとして成立している最大の理由は、こうしたハラスメントの問題に対して真摯に向き合いながら、問題の深刻さを損なわない繊細なバランス感覚でギャグが添えられている点にあります。私も最初はこみちとオリバーの掛け合いをゲラゲラ笑いながら読んでいたのですが、本作を読み終えた頃にはこいつはとんでもない作品だと驚かされました。ただでさえ、最近はセクハラ・パワハラなどに敏感な世情ですから、一歩間違えば差別を助長する漫画だと指摘を受ける可能性もあるわけです。そんな中でコメディという武器を携え、ハラスメントの問題に切り込んだ本作は本当にスゴい。きっと、作者の日夜カモ先生はかなり繊細な部分にまで注意を払ってこの作品を完成させたことでしょう。

個人的に一番ハッとさせられたエピソードはクリスマスシーズンにYouTuberから無理矢理撮影をせがまれるトナカイの話。前半ではYouTuberが迷惑行為を働く悪として描かれるものの、最終的には自覚なくアニマルハラスメントをしてしまったある種の被害者として描かれる展開には脱帽もの。もちろん、自覚がなければ他人に迷惑をかけても許されるというわけではありませんが、無自覚なハラスメントはいまの世の中でもたくさん起こっているはずです。そうした自覚のない人々にもハラスメントとは何かを伝えることで、世の中で起こっている問題はきっと少なくなるはず。コメディを描きながら、ハラスメントに関する啓蒙も同時に行う『アニマルハラスメント』はいまを生きるすべての人々に読んでほしい作品です

まとめ

少々熱くなってしまい社会派コメディに関する記述に終止してしまいましたが、本作にもちゃんと萌え要素はあります。こみちは基本ツッコミ役なんですがメンタル面の弱さから生じるテンションの乱高下がかわいらしい!友だちのデートを見守る際には恋する乙女のように目を輝かせ、その途中でオリバーにばったり遭遇してしまうことでテンションが急降下。かわいそうな女の子を応援したり守ってあげたくなる方にはこみちはうってつけのヒロインだと思います

再三言ってますが本作のキャラクタはー本当に生き生きと描かれています。普通ならツッコミ役ってそのポジションを演じることにキャラクターを持っていかれて、一人の生きた人間として描くのがなかなか難しいものです。その中でこみちは自然と内から湧き出る言葉が笑いを誘う巧みなツッコミとして機能しているので、非常に魅力的ですね

本作はコメディとしての質がかなり高い作品なので面白いギャグで何も考えず笑いたいという方にもオススメできるのですが、日々を幸せに生きるためのよすがとしてもきっと皆さんを支えてくれる作品です。もし、この記事を読んで『アニマルハラスメント』を読んでくださったなら是非とも他の方にも勧めてみてください。みんなで広げよう『アニマルハラスメント』の輪!(なんだか誤解を呼びそうな表現)

物語の行間に潜む感情の機微を炙り出せるような記事を書きたいです。ショートカットで元気な女の子が大好きなので、オススメの作品があったらご一報ください。

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