ラブひな(5) (講談社コミックス)

個性豊かな美少女たちがクラス女子寮ひなた荘で起こる日常を描いたラブコメの金字塔「ラブひな」。主人公の浦島 景太郎は、幼い頃に将来を誓いあった「約束の女の子」と再会するため、東大合格を目指して奮闘しています。今回は、ラブひな単行本第5巻のレビューをさせていただきます。

さて、前巻で東大の再受験を決めた景太郎ですが、この時点で季節はまだ夏の真っただ中。本格的な受験勉強を始めるまでにはまだ時間があるため、景太郎率いるひなた荘の一行は海の家でのアルバイトを始めました。そんなわけで、5巻はひなた荘を飛び出して海でのイベントが目白押しのエピソードとなっています。

海でのエピソードというのはつまり、萌え系マンガには欠かせない「水着回」というやつですね。とはいっても、ラブひなの場合はいつもヒロインたちが温泉に入っているので、普段が「全裸回」のようなものなのですが…ともかく5巻は、海の家で働くなかで景太郎と成瀬川がさらに親密になっていく姿をご覧いただける巻となっております。

あらすじ

瀬田さんが成瀬川にとっての「約束の人」だと知った景太郎は、気まずくなってしまい成瀬川と話せずにいました。ひなた荘のヒロインたちもギクシャクした2人の関係を何とかしなければと考えていましたが、当の景太郎が立ち直ってくれません。

その様子を見かねたのか、景太郎の叔母にあたるはるかさんは、「浜茶屋ひなた」で働いてくるよう景太郎に命じました。浜茶屋ひなたは、ひなた荘が夏の時期だけオープンしている海の家で、その売り上げはひなた荘の維持費の足しになるといいます。

こうして景太郎率いるひなた荘の一行は、近くの旅館に泊まり込みで海の家でのアルバイトを始めます。海沿いの街で、ヒロインたちとの海水浴、夏祭り、肝試しと、イベント盛りだくさんの夏が始まるのでした。夏の間に、景太郎は成瀬川と仲直りすることができるのでしょうか…

感想

前半は夏のイベント盛りだくさん!

ラブひな5巻は、前半と後半でエピソードが分かれています。9話収録されているうち、前半の5話までが全てひなた荘を飛び出して「浜茶屋ひなた」でアルバイトをするエピソードとなっています。とはいえずっとアルバイトをしているというわけではなく、オフの時間に海水浴をしたり、夏祭りに行ったり、肝試しをしたり…などなど、ラブコメには欠かせない夏らしいイベントを中心にストーリーが進みます。数話ごとにいわゆる「水着回」や「浴衣回」が挟まれているので、ファン必見のサービス巻といったところでしょうか。

夏のエピソードのなかでは特におすすめなのが、35話「ハプニングCHU」です。海の家に来ても結局ケンカしてばかりだった景太郎と成瀬川が完全に和解するというストーリーなのですが、ラブひな的には記念すべきシーンがあるのです。結論から言ってしまえば景太郎と成瀬川の初キスが描かれているのですが、初キスに至るまでの流れがあまりにも景太郎と成瀬川らしいというか、色気の無い感じに仕上がっています。2人のキスにはサラの行動が大きく関わってくるのですが、詳しくは本編を読んでみてのお楽しみです。

また、夏のエピソードには景太郎と成瀬川のギクシャクの原因である瀬田さんも登場します。瀬田さんに関してはまだまだ謎が多いのですが、実はこの巻には瀬田さんの過去に関する伏線が張り巡らされています。これまでは成瀬川との関係だけが取りざたされてきた瀬田さんですが、景太郎の叔母にあたる浦島 はるかさんとの関係に気をつけて読むと面白いです。次巻以降の大きなネタバレになってしまうのでこれ以上は言えませんが、瀬田さんとはるかさんは、今後の展開に大きく関わってくるのです。

後半ではヒロインたちの素性が掘り下げられる

5巻の前半は全て海でのエピソードでしたが、後半部分にはひなた荘に帰ってからの日常が描かれています。東大受験に失敗してからというもの自然に成瀬川中心のエピソードが多くなっていましたが、この巻の後半では、しのぶ、素子、カオラ、キツネの4人のヒロインに焦点が合わせられたエピソードが各1話づつ用意されています。1巻の時点ですでに景太郎に好意を抱いていたしのぶや素子はもちろん、本心が読みづらいカオラとキツネの素性に迫るエピソードは必見です。

しのぶの心情を中心に描かれた「キスMeセンパイ」というエピソードでは、ひなた荘のメンバーのファーストキスの相手が明かされます。景太郎と成瀬川のファーストキスの相手がむつみさんだったのは単行本3巻にも描かれていたことですが、素子、しのぶ、カオラのファーストキスの相手が明かされるのはここが初です。とはいっても、景太郎と成瀬川以外の3人はこのエピソードのなかでファーストキスを済ませるので当たり前と言えば当たり前なのですが…誰が誰とファーストキスをしたのかは、本編を読んでのお楽しみです。

このように、5巻後半で描かれているのは成瀬川以外のヒロインに焦点を合わせたエピソードです。しかしこれまでの流れがあっただけに、どれだけ他のヒロインたちがピックアップされても結局は成瀬川がメインヒロインという感じが否めません。先述の「キスMeセンパイ」でも、しのぶにファーストキスのことを聞かれた成瀬川と景太郎が自分たちのキスのことを語る流れになっています。他のエピソードも、景太郎と成瀬川がイチャイチャしているところに他のヒロインが割り込む流れが多くなってきます。作中ではまだ明言はされていませんが、景太郎と成瀬川はこの時点でほとんどカップル同然の関係性になっているといえます。

この巻からどんどん強くなるファンタジー色

ラブひなという作品は、1990年代の日本を舞台にしたマンガ作品です。もともと、冴えない男子が女子寮の管理人になる…というのもファンタジーと言えばファンタジーのようなものですが、一応は現実に則した設定になっていました。主人公の景太郎は別に魔王を倒そうとしているわけでも世界征服をしようとしているわけでもなく、最終目標が「東大合格」という現実的なものですから、そんなに現実離れした世界観ではありません。ただ、この5巻を境に何故かファンタジーの世界観が一気に強まっていくことになります。

これまでの巻にも、ひなた荘で飼っているカメが平然と空を飛んでいたり、成瀬川が景太郎を殴ると海の果てまで飛んでいくなど、突飛な表現はいくつもありました。とは言ってもそのほとんどはギャグパートのようなもので、マンガ的な表現という域を出ていなかったように感じます。しかし5巻以降、カオラがオーバーテクノロジーレベルの発明品を開発したり、素子が気を操って岩を斬ったりと、バトルマンガ顔負けの設定が多く登場します。ラブひなが一般的な東大受験生を描いたラブコメから、とんでも設定のラブコメに変化したのがこの巻あたりからです。

この巻で素子の使う剣術が「京都神鳴流」という流派であることが明かされるのですが、神鳴流の存在は赤松作品を語る上で欠かせません。ラブひなではもちろん、赤松先生がラブひなの後に描いた作品にも神鳴流の使い手が必ず登場するのです。萌え系マンガの要素よりもバトルマンガの要素が強くなった「魔法先生ネギま!」や「UQ HOLDER!」でも、神鳴流が最強クラスの流派として描かれています。他の作品で神鳴流を知ったという読者の皆さんには、元祖神鳴流の使い手である素子の修業時代の姿を是非ご覧いただきたいです。

まとめ

ラブひな単行本5巻は、これまでとは一味違う構成になっていました。4巻までが「ラブコメの王道」なら、5巻以降は「ファンタジーラブコメの王道」といったところでしょうか。これまでに無かった設定の追加により、ラブひなは他の人には真似できない独特な世界観の作品へと進化を遂げました。とはいえこの巻ではまだギャグ口調で説明されている「神鳴流」や「カオラの発明品」ですが、これらの設定は今後のシリアスな展開にも関わります。特に神鳴流はラブひな以降の赤松作品にも登場する重要な要素となっていきます。

この作品の最終目標は景太郎の「東大合格」、そして東大で「約束の女の子」に再開することですが、実はこれらの目標に関して5巻ではほとんど進展がありません。受験勉強に関しては、海で単語帳を読んでいるシーンや、成瀬川と会話しながらノートを開いているシーンが数コマあるだけですし、「約束の女の子」に関する新情報も全く登場しません。前半は海の家でのアルバイトを中心に、後半はひなた荘での日常を中心に…と、やや箸休めのエピソードが多い巻となっていました。

ただ、いつの間にか景太郎と成瀬川は暗黙のカップルのような関係になっているのも面白いところです。どちらが告白したということも無ければ付き合っているという意識も無いようですが、はたから見れば完全にカップルそのものです。考えてみれば、2人きりで旅館の同じ部屋に泊まったり、みんなのいる部屋を抜け出して2人でお酒を飲んだり、挙句の果てにはキスの経験まであるような男女に「付き合ってない」なんて言われても…という感じではありますが。今後の巻では、いつ景太郎と成瀬川が「正式に」付き合うのかも見ものになってきそうですね。

オススメ度
★★★★★★★★☆☆ ★8