亜人ちゃんは語りたい(2) (ヤンマガKCスペシャル)

そこは神話やおとぎ話に等に登場する「亜人」が、空想の産物ではなく普通の人間たちと共存し、社会の一員として暮らす世界。けれど、世間一般にデミ(Demi-humanをもじった呼称)と呼ばれる彼らはとても珍しく、出会う機会は非常に少ないと認識されています。

ところが、何の因果か亜人たちの生態に興味を持つ生物教師・高橋鉄男が勤務している柴崎高等学校に、サキュバス、バンパイア、雪女、デュラハンの特性を持つ四人の亜人たちが、奇跡的な偶然を経て集まってしまったのです!

「亜人ちゃんは語りたい」は、そんな世界の中で日常生活を送る高校教師とその同僚、女子生徒たちが織りなす、キュートでほのぼの、時折ドタバタとした学園亜人コメディです。今回は、その第2巻について解説したいと思います。

あらすじ

学校生活の中で、自分たち個人とと誠実に向き合ってくれる高橋先生に対し、デミ少女たちや同僚のサキュバス・佐藤早紀恵は徐々に信頼と好意を寄せつつありました。そんな中、大人の女性らしい雰囲気を漂わせる早紀恵に、町京子は相談を持ちかけます。

「好きな人がいるけれど、子供っぽ過ぎて釣り合いがとれません。でも、大人らしくなるにはどうすればいいのかわからなく……」京子の中で、格好いい大人の女性そのものである早紀恵でしたが、実は恋愛経験ゼロ。どう答えればいいのか迷った彼女は「大人」というものについて、自分なりの考えを語り始めました。

いっぽう、バンパイアを姉に持つ小鳥遊ひまりは、高橋のことをを信じていませんでした。亜人に対する興味だけを優先して、姉を実験サンプルのように見ているのではないかと思えたからです。偶然高橋と帰宅が重なった彼女は、真正面から彼を問い詰め……。

感想

恋する女子生徒と女教師の語り合いから感じる微笑ましさ

京子には、子供の頃から大好きなことがありました。それは、顔をぎゅっとハグしてもらうこと。ところが、両親に「高校生になったんだから、ガマンしなさい」叱られてしまいます。デュラハンは頭と胴体が分かれており、頭だけでは身動きひとつとれません。それが、孤独を嫌うデュラハンの本質に繋がるのだと第1巻で語られています。その話を聞いて京子が寂しがっており、まだまだ甘えたい年頃なのだと理解した高橋は、彼女の願いを受け入れ、頭を抱き締めてあげたのです。

この出来事をきっかけに、京子は「大人な男性」である高橋先生に憧れを抱き始めたわけですが、子供っぽい自分では、先生と釣り合わないのではないかと悩んでしまいます。そんな時、性質こそ違うものの、同じ亜人であり「大人の女性」そのもの(のように)見える佐藤先生と二人だけで話す機会が得られました。そこで、恥ずかしがりながらも高橋先生に恋をしていることを告白し、佐藤先生のようになるのはどうしたらいいのかと、相談を持ちかけます。

ところが、佐藤自身も同僚の高橋に好意を寄せていたからさあ大変。彼女は教師なので、それを口にしたりはしませんが、声に動揺がにじみ出てしまいます。まだ子供な京子がそれに気付かないせいで修羅場にこそなりませんが、思わずヒヤリとさせられます。しかし、その後のやりとりで恋愛経験が無いなりに自分から見た「大人」というものについて本音で語った佐藤先生は、とても素敵です。もっとも、その後の言動に漂う微妙に残念な雰囲気が、それを台無しにしてしまっている訳ですが……。なお、この語り合いの中で高橋が佐藤よりも10歳以上年上であることが判明します。彼女と同年代に見えていたので、正直意外でした。

亜人の姉を持つ妹の不安と、それに対する教師の答え

これまでは亜人の性質を中心に語られてきた本作ですが、この巻でようやく高橋鉄男という人物の考え方について掘り下げられます。双子の姉がバンパイアである小鳥遊ひまりは、姉によくしてくれる高橋という教師を信じ切れずにいました。それもそのはず、彼は亜人に並々ならぬ興味を持っており、その上、生物学の先生です。姉のことを貴重な実験サンプル程度にしか見ていないのではないか、と疑うのに充分過ぎる条件を満たしているわけですから。

見る角度を少し変えてみると、これはハンディキャップを持つ家族に対して、周囲の人間が興味本位で近付いてきているのではないか、とも取れる内容です。そう考えてみると、ひまりが不安や不信感を抱くのも当然と言えるのではないでしょうか。だからこそ、彼女は大切な姉を守るため、高橋に対して「姉の持つ亜人の性質に執心しているだけで、人間性についてはそれほど興味がないのではありませんか?」という厳しい言葉を投げかけたのです。

これまで、研究者気質が前面に出過ぎており、やや変人じみた感のある高橋先生の本音と、亜人たちに対する見解は一読の価値があります。なるほど、こういう考えを元に生徒たちと接していたのであれば、彼らから慕われるのも、佐藤先生の目から見て「大人だ」と言われるのも納得のカッコ良さ。不安だったひまりも、それを聞いてようやく安心できた……と、思いきや。この事件の結末は、是非お手に取ってご確認いただきたいと思います。

冷たい雪女ちゃんの内側に隠された、暖かくも優しい涙

前の巻で少しだけ触れられた、雪女・日下部雪がクラスメイト達から距離を取る理由。それが、この第2巻で明かされます。冷気を発する性質を持つ彼女は、高橋先生に、自分がどれだけ危険な亜人なのかわからない、だから怖くて他人と関われないのだと告白しました。それを聞いた高橋が、どうして彼女がそんな風に思い詰めているのか、過去に何かあったのではないかと考え、ずっと雪女であることを隠していたのか、どんな能力を持っているのかをひとつひとつ確認していきます。

調査の過程は、実に生物の先生らしい検証と、亜人の伝承に詳しい高橋先生ならでは。思わぬ解答に思わず唸らされました。結果、彼女の持つ性質が他人を危険に晒すようなものではないとわかり、安堵の涙を流す雪。他人と友好的に接しようとしない、冷たい雪女は……本当はみんなと仲良くしたかった、周囲の人々を大切に思っていたからこそ冷めていた、心優しい女の子だったのです。こうして自分の性質に向き合えた雪は、クラスメイトだけでなく、同じ亜人の子たちにも友好的に接し始めます。

亜人というカテゴリに目をそらされがちですが、抱える事情やコンプレックスから、あえて他者と交流しない、というのはよくある話ですね。ファンタジーな世界だけれど、現実でも普通に起きえる状況を扱ったこのお話は、何だか身につまされます。もちろん、常に問題が解決するわけではありませんが、どうにかしようと奮闘する高橋先生の姿勢は、とても尊いものだと感じられました。こんな先生に教えてもらえる彼女たちが、とても羨ましいです。

まとめ

この巻では、普通の人間とそうでない者の間に横たわる問題について切り込んでいます。これだけを読むと、重い話を内包した教師と生徒のヒューマンドラマのように感じられるかもしれませんが、実際にはもっとゆるーく話が進んでいきますし、要所要所でギャグが挟まる上に、キュートで明るい女の子たちが彩りを添えてくれているため、時にクスリと笑わされ、あるいは温かい気持ちにさせられるほのぼの、ドタバタとした前巻からの作風に変わりはないのでご安心ください。

中には、主人公(であるはず)の高橋先生が登場しない回もありますが、それでも安定の面白さ。これは、サキュバスの佐藤先生をはじめとした亜人ちゃんたちのキャラクターが、しっかりと立っている証拠だと思います。そして、生徒と先生、その家族だけしか出て来なかった本作に、学校生活からかけ離れた舞台から、新しいキャラクターたちが現れるのもこの巻の特徴です。いよいよ世界が外にも広がっていくのかと、期待に胸が膨らみます。

亜人ではありませんが、ひかりの妹のひまりちゃんも、姉や高橋先生に対して手厳しいことを言いつつも心根の優しさがにじみ出ている、とても魅力的な女の子だと思います。そして、そんな彼女だけでなく、ヒロイン全員の可愛らしさが大幅にアップしているのは、前巻と比較して、さらに柔らかくなった絵の効果も大きいと感じられました。お話の内容も前述の通り充実していて、それでいて読みやすい。多くの人にお勧めできる一冊です。

オススメ度
★★★★★★★★★★ ★10