亜人ちゃんは語りたい(3) (ヤンマガKCスペシャル)

普通の人にはない、特別な性質を持つ亜人(デミ)。けれど、彼らが他の人たちと違うのは、あくまでの亜人としての性質があるか否かだけで、それ以外は一般人と何も変わりません。もちろん、柴崎高等学校に通う彼女たちも……。

しかし、ここ最近こそ亜人に対する謂われのない偏見や迫害は無くなりつつありますが、昔は色々と大変だったようです。人々は亜人に大してトゲトゲしており、精神的に追い詰められた亜人たちが問題を起こすことがしょっちゅうだったのだとか。

「亜人ちゃんは語りたい」第3巻では、いつもの亜人少女たちが織りなすドタバタ学園コメディに加え、新たに登場した亜人課の刑事と高橋・佐藤両教師の立場と目線で、過去と現在の亜人たちを取り巻く環境について語られます。

あらすじ

第2巻のラストシーンで小鳥遊ひかりが見かけた熊のように大きな不審者は、宇垣と名乗る刑事とその後輩クルツでした。宇垣は佐藤早紀絵先生の古くからの知り合いで、その日は彼女に会うために柴崎高等学校を訪れていたのです。

普段は外で会うようにしている彼が、わざわざ学校まで来たことに疑問を持った早紀絵は、彼に真意を問い質します。最初から隠すつもりなどなかった宇垣は、あっさりと答えます。同じ高校に亜人が三人も集まったから、顔くらいは見ておきたい、と。

いっぽう、廊下に張り出されたテストの上位成績者一覧を見ていたひかりと日下部雪は、驚きを隠せませんでした。学年5位に町京子の名前があったからです。かたやひかりは赤点を取って、高橋先生に叱られてしまいます。先生に嫌われたくないひかりは、友人たちと共に猛勉強を開始したのですが……。

感想

恋に恋していたサキュバスが、本当の恋を知る瞬間

第3巻では、ついに佐藤先生の過去についてスポットが当てられます。古くから早紀絵と関わっていた亜人課の刑事・宇垣は、彼女の将来を本気で心配していました。何故なら、サキュバスという亜人の性質は、無意識に他人を催淫……エッチな気分にさせてしまうという、普通に社会生活を送るのが難しいものだからです。こうした宇垣の気遣いは昔から変わらないようで、早紀絵も「本当の父親よりも父親らしいことをしてくれる」相手として認識していました。彼女が持つ性質のせいで、家族とうまくいっていないことを暗に示唆しているシーンです。

そんな宇垣に、最近気になっている人がいるとを打ち明ける早紀恵。まさか彼女から色恋の話を聞かされるとは思ってもみなかった宇垣は驚愕します。それもそのはず、早紀恵が常日頃からサキュバスの性質である「催淫」を恋愛に使いたくない、本物の好意がわからないと悩んでいたのをよく知っていたからです。ところが、話が進むうちに、早紀恵が「性的に淡泊な人間なら恋愛対象になる」と考えていたのが、実は誤解だったと判明します。多くのサキュバスを見てきた宇垣が、性欲が薄い相手ですら無理矢理催淫してしまうのがサキュバスの性質であり、亜人に詳しい者なら、催淫されても表に出さない気遣いができるはずだと断言したからです。

高橋への思いが誤解からくるものだと知った彼女の反応は劇的でした。初めて恋を知った少女のような初々しさと、妙齢の女性とは思えない微妙な残念さが合わさって、佐藤先生の魅力が5倍増しくらいに感じられました。これではお父さん、もとい宇垣刑事が心配するのも納得の可愛らしさ。恋に恋していたサキュバスが、本気の恋に落ちたこの瞬間は、読んでいるこちらがむず痒くなるような、それでいて今後を見守りたくなる微笑ましさを感じさせてくれました。

亜人を取り巻く環境と、煙たがられる大人たちの心意気

クルツから、宇垣たちが亜人関連の仕事をしていることを知った高橋は、学校内にある喫煙室で一服していた宇垣を訪ねます。そこで彼らが亜人課の刑事であることを知り、目を輝かせる高橋。ここで、この世界における亜人と、彼らに対する一般人のスタンスが明かされました。今でこそ亜人がらみの事件は少なくなっているようですが、昔……宇垣の年代から察するに、20年ほど前まで世間は亜人に冷たく、精神的にも生活的にも追い詰められた亜人がちょくちょくトラブルを起こしていたようです。

けれど、最近ではそういった話はほとんど聞かなくなっているのだとか。国が対策を取ったことも功を奏しているようですが、宇垣は世の中が丸くなってきているからだと言います。亜人の子供が一カ所に3人も集まってしまったのに、悪い噂を聞くどころか全員仲良く、とても楽しそうに過ごしているのが何よりの証拠だと。嬉しそうに語る宇垣の姿は、早紀恵が頼りにしているだけあって良い人なのだと思わされる一幕であり、その反面、世間の一部には、未だ亜人に対する偏見が残っているのだと暗示している話でもあります。

話を交わすうちに、高橋が早紀恵の思い人であること、柴崎高校で亜人少女たちが笑顔で学校生活を送れていることを悟る宇垣と、彼の期待に応えようとする高橋先生は、頼りがいのあるカッコイイ大人の男でした。ただし、二人とも色々とやり過ぎて亜人ちゃん達からは煙たがられてしまうわけですが……。そんな彼らと、亜人ちゃんの程よい距離感が心地よく思えます。こういう大人たちがいれば、今よりも世界はもっと優しく、温かくなっていくのではないでしょうか。

頑張る生徒たちの裏で、奮い立つ女教師

この巻では、学園モノのお約束とも呼べる「テスト勉強」イベントが発生します。廊下に張り出された上位者の中に、ひかりの妹ひまりと、亜人三人娘のひとり町京子の名前が書かれていました。いっぽう、ひかりは赤点3つと散々な成績です。お馬鹿で底抜けに明るいひかりのキャラクター的に、ある意味予想できた結果でしたが、天然風味な京子が学年トップクラスの実力の持ち主だったのは、正直意外でした。ちなみに、雪は高橋先生曰く中間レベルだったようです。

「バンパイアだからって、答案まで真っ赤にしなくてもいいんだがな」と、高橋先生に嫌味混じりに叱られてしまったひかりは涙目です。先生に嫌われたくないひかりは、素直に雪のアドバイスに従うことにしました。そう、成績が悪くて怒られたのだから、あとは勉強するしかありません。好意を寄せる相手を振り向かせるために大嫌いな勉強を頑張る。まさしく青春の1ページですね。色仕掛けやカンニングなどといった裏道に走らないところも、ひかりの性格の良さが現れています。「亜人ちゃんは語りたい」に出てくる女の子たちは、こんな風に良い子ばかりなので、読んでいて心がぽかぽかしてきます。

いっぽう、宇垣に思い人が高橋先生であることを悟られた早紀恵は、サキュバスとして一皮ムケる時だと煽られていました。好きな相手ができた以上、催淫していくことにも慣れていかなければならないと口八丁手八丁で早紀恵をそそのかす宇垣は、まるで悪魔のようでした。ある意味、サキュバスとは相性が良いのかもしれません。真面目にテスト勉強を頑張る少女たちの裏で「はじめてのゆうわく」を試そうとする佐藤先生。この対比がまた笑いを誘うわけですが、本当にこれでいいのか高校教師……。

まとめ

「亜人ちゃんは語りたい」第3巻は、登場する亜人ちゃんたちのキャラクター性を、これまで以上に深く掘り下げる構成となっています。明るく悪戯好きではあるけれど、根は結構真面目なひかり。天然っぽさを垣間見せながらも、実は勉強するのが大好きという意外さを出してきた京子に加え、やっぱり残念だった佐藤先生。第2巻で集中的に描かれたせいなのか、雪のエピソードがやや薄めでしたが、それは次の巻以降に期待したいと思います。

今回最大の見どころは、やはり佐藤先生に尽きるでしょう。彼女と接触する機会の多い宇垣刑事は、ここまでのスタンスからして「娘からのろけ話を聞かされるお父さん」というポジションから外れることはなさそうですが、果たしてどうなることか。サキュバスの性質をもってしても催淫されなかった、クルツとは何者なのでしょうか。やはり彼も亜人なのでしょうか? それとも、宇垣が語っていた通り、対サキュバスに特化した何らかの措置が? 大変気になるところで終わってしまったので、今後がとても気になります。

これまでは、ただ相手を想うばかりで全く行動を起こしてこなかった佐藤先生が、宇垣刑事のアドバイス(悪魔のささやきとも言う)をきっかけに、忌み嫌っていたはずの催淫を少しだけ解放し始めましたが、それ以外にも、思わぬ人物が高橋先生に対し、恋愛的な意味でのアタックを開始します。その行為がどんなものであるのか、その他のキャタクター達がどう動くのか。ここから先が気になる方は、是非「亜人ちゃんは語りたい」第3巻をお手に取って確かめてみてください。

オススメ度
★★★★★★★★★☆ ★9