亜人ちゃんは語りたい(4) (ヤンマガKCスペシャル)

普通の人とは違う性質を持つ亜人。彼らには、さまざまな悩みがありました。たとえば、亜人という響きが可愛くない! 教科書的で古い! そんなのは嫌だから、せめて仲間内では別の呼び方をしようと、女子高生や若い子たちを中心に広まったのが「デミ」という呼称でした。

キュートな亜人(デミ)ちゃん達は、そんな可愛らしい悩みを誰かに聞いて欲しくてたまりません。だからこそ、信頼している先生に語るのです。亜人としての性質だけでなく、学校生活を送る上で困ることや、ふとした出来事、自分の将来についても……。

「亜人ちゃんは語りたい」第4巻では、そんな亜人ちゃん達と生物教師・高橋先生のドタバタ学園生活に加え、SFからF(フィクション)を無くしたい物理学の助教視点で、デュラハンという存在について検証していきます。

あらすじ

全世界に3人しかいない、亜人の中でも特に珍しいデュラハンの少女・町京子は、学校生活を送るうちに悩みを抱えてしまいました。京子は、首と胴体が離れても生きていられるという自分の身体について、わからないままで放置せず、もっと知りたいと思い始めたのです。

幸いにも高校で亜人の生態に詳しい高橋先生と出会えた彼女は、その考えを先生に相談しました。京子から話を聞いた高橋は、自分の専攻した生物学ではない、別の学問を修めた人物の視点で見てもらってはどうかと提案します。

ところが、そんな高橋の行動を教頭先生は良く思っていませんでした。亜人の生徒の面倒を見ることばかりにかまけて、他の生徒達をないがしろにしているように感じていたからです。教頭からそう指摘された高橋は、教師としての自分のありかたに悩み始め……。

感想

物理学者の視点で検証する、デュラハンの秘密

「亜人ちゃんは語りたい」第4巻では、これまで生物学の常識の中で亜人ちゃん達と交流していた高橋先生が、別の常識の中で生きている人物に頼ります。母校で助教を務めている友人の物理学者を頼り、畑違いの視点からデュラハンの身体にまつわる謎に迫ろうとしたわけです。この巻以前は、亜人本人やその家族から詳細な話を聞いたり、集めた資料からそれらしい伝承に当たりをつけて、独自に検証を進めてきた高橋先生の、明確な変化でした。

そして、新たに登場した物理学助教の相馬。高橋も「亜人好きの変態教師」などと生徒に言われて否定できない位の変わり者ですが、相馬はそれに輪をかけた変人です。高橋とは親友同士の関係ですが、これは案外似たもの同士が引き合った結果なのかもしれません。そんな相馬曰く、デュラハンは物理学者にとってロマンの塊なのだそうです。たとえば、京子が何かを食べたとして、それを飲み込んだ瞬間、分離した身体のほうへ移動していることから、時空を超えた物質の移動が可能であることの証明に他ならないのだと。

デュラハンの首と胴体は高次元空間のトンネル(ワームホール)で繋がっている説、肉体的には普通の人間と変わらないが、首だけが別の空間に存在する説、さらに量子力学までからんでくる等々、SFチックな仮説がぽんぽん飛び出してきて、想像するだけで楽しくなってきます。ひとつだけでなく、複数の視点からアプローチするという科学ならではの手法に、京子自身も大きな関心を寄せていました。この出会いは、彼女の今後に大きな影響を及ぼしそうです。

誰かを支えたいと頑張るのは、否定されるものなのか

とある日の放課後。男子生徒達から一緒にサッカーをしようと誘われた高橋は、亜人生徒たちが夏を乗り切るための研究を完成させるという理由で、彼らの申し入れを断ってしまいます。高橋が亜人達だけでなく、他の生徒からも親しみやすい先生として見られていることを示す一幕でした。ところが、男子生徒が漏らした「すっかり亜人ちゃん専属の先生ですね」という言葉が、高橋の胸中に不穏な空気を呼び起こしてしまいました。高橋本人にはそんなつもりはなかったようですが、生徒たちは見ていたのです。亜人ちゃん達が相談を持ちかけるのは、高橋先生に対してだけでした。

そして、教頭先生もそれを良く思っていませんでした。高橋が亜人たちの相談に乗ること自体は問題ありません。ですが、亜人以外にも生徒はいるのです。それに、他の教員達が亜人たちから信頼されないのは、高橋が頑張り過ぎるのがいけないのだと。その場に居合わせた生徒たちが、高橋先生は俺達の事もよく見てくれていると反論しますが、高橋自身は教頭の言葉を重く受け止めてしまいます。亜人ちゃん達を支えてやりたいと考えていたこと自体が間違いで、彼女達はもっと色々な人に相談できる環境にあったほうが良いのではないのかと、過去の触れ合い自体が誤りであったかのように思い始めてしまったのです。

このエピソードの見どころは、高橋が教師としてのありかたを改めて考える点だけでなく、偶然高橋と教頭先生が口論する場面に居合わせた生徒たちが、亜人ちゃん達との接し方を、彼らなりに真剣に考えているシーンだと思います。亜人ならではの悩みについて理解しようとせずに、ただ妄信的に「亜人も私たちと同じ人間だ」と考えてしまって本当にいいのか。そんな行動自体が差別なのではないかと話す少年少女たちが、自分たちに出来ることを考えて意見をぶつけ合う。彼らが子供から大人への階段を手探りながらも上り始めたと実感できる、印象的な場面でした。

亜人ちゃん達のエールが可愛過ぎて辛い

教頭先生の指摘を受けた高橋は、いつも通りに接してくるひかり達から距離を取り始めてしまいます。突然のことに驚いた亜人達は、クラスメイトから事情を聞いて、自分たちなりに出来ることをしようと動き始めます。その方法が実に現代的で、彼女たちが今を生きる普通の人間と変わらないのだと感じさせられると同時に、目元がじんわりと熱くなる、素敵な演出でした。こんなことをされたら、男でも……いや、男だからこそ泣いてしまうのかもしれません。

「頑張って前に出ている人に、出過ぎだなんて文句を言うのはおかしい」「足並みを揃えたいと思うなら、自分も同じくらい頑張ること」そう言い切るひかりは、普段はずぼらでいい加減なところがありますが、本当に素敵な女の子です。そんな彼女が、自分に出来る範囲で一生懸命高橋先生を励ます姿は、けなげで愛おしく感じます。男女の愛ではなく、例えるなら、元気を無くした大型犬の側で静かに寄り添う子猫のようでした。彼女こそがメインヒロインなのかと思わせる程、ひかりの魅力がたっぷり詰まっています。

ですが、他の3人娘も決して負けてはいません。雪女の体質を最短で解明してくれたからこそ、時間に余裕ができて、友人達との距離が詰まったと感謝を述べる雪。デミか否かに関係なく、どんな生徒の前でも等しく先生でいられる高橋だからこそ信頼していると語る京子、いち教師として、同僚として頼りにしていると感謝の言葉を述べつつも、さりげなく飲みに誘う早紀恵。全員、高橋が大好きなんだなとほんわかすると同時に、相変わらず残念な佐藤先生に苦笑いさせられます。このままオチ担当になってしまうのではと、少し心配です。とはいえ、それはそれで面白いのですが。

まとめ

これまで触れてきませんでしたが、第1巻から今回の第4巻まで、各エピソードの間に亜人ちゃん達の日常生活を補完する四コマ漫画が挟まれています。亜人ちゃんにあだ名をつけてもらいたかったのに、そもそも名前を覚えてもらえていなかった男子生徒、ずぼらな姉を矯正したいのに、逆にペースに乗せられてしまうひまり。佐藤先生の残念な日常生活など、彼女たちのスクールライフが垣間見えてほっこりします。特に4巻にはやや重めの話があるため、余計にそう感じられます。

「亜人ちゃんは語りたい」は、ドタバタ学園コメディを主体に据えつつも、亜人たちの設定語りに終始している印象が強くなりがちな構成です。けれど、この四コマ漫画が一種の清涼剤のような存在となっています。もちろん、本編の亜人ちゃん達は皆キュートなので見ているだけで楽しいのですが、この閑話的四コマがあることで、彼女たちの魅力がさらにアップしているように感じます。また、思いもよらぬ設定が語られることがあるので見逃せません。

生徒たちは悩み、教師たちもまた悩む。迷いながらも、まっすぐ歩いていく人々の姿は輝いています。作中ではそんな彼らの歩みと共に時は過ぎ、間もなく夏がやって来ます。日差しが苦手なバンパイアや、暑さに弱い雪女は、果たして迫り来る猛暑に耐えられるのでしょうか? 夏といえばプールですが、薄手のシャツでも色気マシマシになってしまう佐藤先生が水着を着たりしたら、どうなってしまうのでしょうか。そんなドキドキな夏の彼女たちに逢えることを期待しつつ、今回は〆させていただきたいと思います。

オススメ度
★★★★★★★★★★ ★10