citrus: 1 (百合姫コミックス)

萌えまんがに百合の要素を見出す人は珍しくなく、ジャンルとして確立された感があります。一般紙でも百合まんが連載されるなど認知度が高く、それほどマニアックなものではなくなっています。

しかし、百合まんがも昔はマイナージャンルであり、その中に萌えを見出す人も少数派でした。今回は百合まんががいかにメジャーシーンに上り詰めてきたのか、その歴史を紐解き、萌えとの関わり合いを解説したいと思います。

百合まんがの金字塔『青い花』の存在とその影響

青い花(1)

百合まんがの歴史に名前を刻んだ青い花

百合まんがの歴史を紐解く上で必ず語らなければならないのが『青い花』の存在です。過去にも女性同士の友情などを扱った作品はありましたが、『青い花』の登場は文字通り歴史を一変させてしまいました。

『青い花』の特長は、女同士の友情も、女子高にありがちな女性への憧れも、一人の人間として女性同士が愛し合うということも全て同じ作品内で描かれていることです。感情のリアリティーと丁寧な描写は圧倒的で、正統派百合まんがの金字塔として後世に残る名作になっています。

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告白を呪いに例えるなど、ただ甘いだけでなく、思いの深さと人の感情の厚みを感じさせる台詞回しが印象的。

掲載雑誌はマニアックな作品が多く、2014年休刊

『青い花』の連載開始は2004年で、完結が2013年と、9年間にわたって連載されています。掲載誌は2001年創刊の『マンガ・エロティクス・エフ』で知る人ぞ知るまんが雑誌でした。特長的なのは、異性同士の恋愛だけでなく、女性同士の恋愛を描いた百合、男性同士の恋愛を描いたBLなど、多種多様な性のあり方を描いたまんがが集まっていたことです。

メディアミックスされた作品も多く、『青い花』も2009年にアニメ化し、文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選ばれています。
しかし、時代の先端を行くスタイルを長年持続することは難しく、2014年に雑誌自体が休刊することになるのです。百合専門の雑誌ができるなど、より細分化された他誌が増えたことも影響しています。

『青い花』はWeb連載で復活中

名作といわれる『青い花』ですが、最終巻の発売は2013年と少し前にさかのぼる形となっています。連載時から読んでいた人は少なく、触れられる機会が少ないのが難点でした。

しかし、現在『マンガ・エロティクス・エフ』の出版元である大田出版のWebサイトで、復活連載が行われています。

百合初心者でも手軽に名作に触れられる機会が増えているのです。

百合の普及と萌えまんがへの影響

『けいおん!』が果たした役割は計り知れない

けいおん! (1) (まんがタイムKRコミックス)

『青い花』は百合まんがの歴史に残る作品ですが、連載期間が長く、掲載誌もメジャーとはいえない状態でした。一般層への百合の普及という意味では一歩劣ります。

一般層へ多大な影響を与えたのがライトノベル『マリア様がみてる』と、『けいおん!』の大ヒットです。双方ともメディアミックスに成功し、多様な層のファンを取り込むことに成功した作品です。
『けいおん!』は軽音楽部の女子高生たちがゆるゆるとした日常を過ごす姿を描いています。男性キャラはほぼ登場せず、恋愛も大きな事件も発生しない、いわゆる『日常系』作品の先駆けてでもあり、『萌え』に特化した作品としても知られています。

しかし、『マリア様がみてる』で百合文化に触れた人が、女子しか登場しない『けいおん!』に百合要素を見出し、二次創作を含めた様々な情報を発信し始めたのです。SNSが普及した影響も大きく、これ以降、公式ではなく、萌え作品を見た人が百合に関する情報を発信していくことが珍しくなくなっていくのです。

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けいおん!の百合担当はお金持ちのお嬢様、眉毛がたくあんでお馴染みのムギちゃん。アニメが有名な作品ですが、原作ではよりムギちゃんの百合妄想が頻発していて、この妄想は「ムギビジョン」と呼ばれています。

一般媒体にも百合が普及し始めたのも大きい

咲-Saki- 1巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

百合要素を含んだ作品が徐々に一般紙に進出していったのも大きなポイントになっています。例えば、百合好きから評価が高い作品であり、アニメ化も果たした作品に『咲-Saki-』があります。
2006年から連載で、麻雀が普及した世界を舞台に麻雀に青春をかける女子高生たちのバトルを描いた作品です。一般層になじみが薄い麻雀を題材に扱いながらも、可愛らしいタッチとキャラクターの掛け合いの面白さで一気に人気作に上り詰めます。

アニメ化は2009年で、2012年に外伝作品、2014年に本編2期が放映されるなど、その人気ぶりがうかがえます。一般層への百合イメージの流入は『けいおん!』ほどではありませんでしたが、ある意味で後に続く百合まんがの下地を作った作品ともいえます。

掲載誌は『ヤングガンガン』でメジャー誌とはいえないものの、月2回の発刊が行われるなど発刊スパンが短いことがポイントになっています。


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麻雀を知らない層も巻き込んで、大ヒットを記録。字面がかっこいい役がバンバン飛び出す派手な展開も特長。

一般紙でも百合作品を扱う時代に

やがて君になる (1) (電撃コミックスNEXT)

2017年現在では、一般紙でも多くの百合作品が扱われるようになっています。特に2015年から電撃大王で連載中の『やがて君になる』は女性同士の恋愛を主軸に扱っている点で非常に画期的です。

電撃大王では『新米姉妹のふたりごはん』など、百合作品に分類される人気作も連載されていて、百合のメジャー化への一翼を担っています。

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誰も好きになるはずがなかった二人が出会い、惹かれあった瞬間。最初は生徒会長からの一方通行から恋が始まります。

マニアック路線を貫く百合まんが雑誌も存在する

愛好家に向けた百合雑誌の存在は大きい

コミック百合姫 2017年12月号[雑誌]

多様な性の表現という意味では『マンガ・エロティクス・エフ』は時代の先端を切り開いた雑誌でした。しかし、それ以前からも百合は存在し、一部愛好家に百合を届けるための雑誌や、マニアック路線を貫く雑誌も誕生しています。
1つ目は雑誌『百合姫』です。創刊は2005年、前身となる『百合姉妹』は2003年の創刊になります。百合を専門的に扱った雑誌として、現在は確固たる地位を築いています。

2つ目は『マンガ・エロティクス・エフ』のようなマニアック路線を引き継いだ『楽園 Le Paradis』です。創刊は2009年、百合専門ではなくBLでも何でもありの様々な恋愛の形を描いています。

掲載雑誌によって作品のカラーが変わることは多く、百合の表現にも違いがあるのが特長です。

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百合レーベルのWeb連載サイトが派生するなど、広がりは大きく、支持層にも幅があります。クラウドファンディングで資金を集めて出版された百合漫画専門誌『ガレット』の誕生も話題を集めました。

メジャーへの階段を上っている百合姫

百合姫はもともと他誌の増刊号などとして扱われていて、季刊誌として出発しました。
しかし、2008年に独立創刊、2010年には隔月刊雑誌へと移行。2011年には連載作品『ゆるゆり』がアニメ化されるなど、認知度を高めていきます。

2016年には月刊誌になり、一部の愛好家に向けた雑誌ではなく、より一般的な雑誌になっているのがわかります。2018年にアニメ化予定の作品も抱えていて、注目が集まっています。

また、女性同士が恋愛することに対する葛藤や迷いをスルーして、直球で恋愛感情をぶつける作品が多いのも特長になっています。

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百合姫レーベルの一部作品。『課金済ガールフレンド』や『私の百合はお仕事です!』など、攻めたタイトルも多く、新人の採用にも積極的。また、歴史が長く、手に入り辛い初期短編集の新装版(画面中では『ブラックヤギーと劇薬まどれーぬ 完全版』)も出版されています。

マニアック路線を貫く楽園

楽園 Le Paradis 第25号

メジャーへの階段を上る百合姫とは異なり、『楽園 Le Paradis』は季刊誌として生まれ、発刊ペースを変えずに独自路線を貫いています。あくまで百合は掲載作品の一部であり、物語の奥行きを深めるために使われることがあるのも特長になっています。

『微熱空間』は、『ひだまりスケッチ』などで知られる蒼樹うめ先生の作品で、主人公は再婚で突然姉弟になった男女二人です。しかし、ヒロインに恋する幼馴染の女子が登場し、異性愛だけでなく同性愛の要素も盛り込まれているのです。

甘々な百合作品も存在しますが、リアリティ重視のビターな百合が入りやすいのが雑誌の特長になっています。

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どんなに好きだと思っても、女性同士という性別の壁があると気づいた瞬間。同性同士の恋愛が成立することは難しいというリアルな描写が入る事も。

まとめ


百合まんがは様々な雑誌の誕生やヒット作の影響を受けながら、メジャージャンルへと成長してきました。2018年には百合姫発のアニメ『citrus』、けいおん!と同じまんがタイムきららから『スロウスタート』のアニメ化が決定していて、今後もさらに注目度が高まる可能性があります。

最後に、当サイトで掲載している百合漫画のレビューをいくつかピックアップしました。
百合まんがの歴史を踏まえた上で、レーベルや連載開始時期の違いを考えながら読むと、その楽しみがいっそう深まるはずです。



『星川銀座四丁目1』2人の距離感やお互いを大切に思う気持ち

育児放棄をされた女子小学生と、その面倒を見ることになった女教師の歳の差&禁断の百合を描いた作品。同性を好きになる葛藤よりも、歳の差と元生徒と教師の立場の差に悶えるのがポイント。



『新米姉妹のふたりごはん』の記事まとめ

電撃大王連載タイトル。突如姉妹になった二人のクッキングライフを描いた作品。主人公サチと絵梨の関係は特に百合成分多め。そしてサチがにぶいのもポイントに……



『となりのロボット』百合SFの金字塔といえるような作品

初恋の相手は、年上の女の人でロボット。年齢がかわらず、感情自体がないロボットと恋愛が成立するのかという主人公の葛藤が特長。人の心情を丁寧に描いた百合作品。



『スロウスタート』の記事まとめ

女子同士の直球の恋愛ではなく、仲の良さの中に香る百合を楽しむ作品。作者の篤見唯子先生は『咲-Saki-』の大ファンで、百合方面で多大な影響を受けたことをたびたびツイッター上などでつぶやいています。