どんなものにも終わりがあるように本作『えむの王国』も本巻が最終巻となります。名残惜しく仕方無い事ですが内容は最終巻に相応しいものとなっています。これまでの設定やストーリーの結末が全てこの第3巻に詰まっているのです。

本巻のテーマはストーリーの結末を描くことにあるため全て本筋に沿って描かれています。そしてその雰囲気はシリアスをベースとしているのですが、あくまで4コマギャグ漫画としての形式は保っているため適度にオチがついている形です。

思わぬ展開も見せ、新キャラクターも登場します。作品世界がどのような世界なのかがより掘り下げられていて単にオチをつけるためだけの巻ではないことにも要注目です。それでは構成力の見事なこの作品について見ていきましょう。

あらすじ

旧えむの王国で現えすの王国領土となったセントラル城に到着したシャルロット一行。そこにはえすの王国に潜入していたアレン一行もおり期せずして家族が再会することになります。そしてもちろんそこにはえすの王国の王女メディアも居たのです。

お城の中には事前にとある出会いを果たした百合の国の王女ピアノとその妹フォルテ、それから薔薇の国の王子シェリスも来ています。周辺国を代表する存在が一同に会した舞踏会はつつがなく進行しますが、その裏ではなにやら怪しい動きも見られるようです。

ある者の策謀により段々とキナ臭い様相を見せる舞踏会。ついにはシャルロットが宿敵と対峙することになりますが、そこで王女としての矜持を示すことになるのでした。果たしてえむの王国はどうなるのか、そしてシャルロットにはどのような運命が待ち受けているのでしょうか。

感想

変態性癖大集合!サドマゾ百合薔薇どんとこい!

本作の世界はタイトルの『えむの王国』にもあるようにちょっとどうかしていて、国ごとに性癖が定められています。カスティーナ王国通称えむの王国はマゾヒストだらけですし、ダラス帝国通称えすの国にはサディストがたくさんいるのです。そして百合の国にはもちろん女の子が好きな百合がいて薔薇の国には男の子が好きな薔薇な人たちがいます。そうです、この作品世界は性癖を中心に国づくりが行われているというある意味パラダイスな世界なのです。

そんな変態たちが一同に会するのが本作のメインの舞台となる舞踏会。そこにはサドマゾ百合薔薇どんな描写も含まれているのです。言い換えればあらゆる性癖に対応した万全の構えと言えるでしょう。中でも百合は良いものです。百合の王女は元々ノーマルなのですが、シャルロットのあまりに純粋無垢な心にあてられて百合化してしまいます。良い…。それから王女の妹フォルテも中性的なボーイッシュな出で立ちをしていて萌えポイント倍プッシュです。

淑女の皆様にもありがたい描写として色々と薔薇なシーンも描かれています。といっても直接描写するわけにはいかないのでほのかに香る薔薇なのですが結構重要な場面だったりもします。特に薔薇の国の貴族であるローズベリー家のルーファスは本巻のストーリーの鍵を握る存在なのですが、彼がああなるシーンは薔薇メーターも振り切れ必死です。そんな紳士淑女のあらゆる性癖をカバーしたものが最終巻だったりします。百合も薔薇もサドもマゾも受け入れてくれるありがたい作品世界です。

ストーリーを主軸とするためややシリアス展開が多め

『えむの王国』には全体を包括するように大きなストーリーの流れが存在します。それはこれまでも一貫してきました。そのストーリーの結末を迎えるためにはどうしても相対的にギャグの濃度は低くなります。ベースがギャグ漫画である本作にとって非常に難しい挑戦と言えるでしょう。そのため他の巻と比べるとややシリアス風味が強くなっています。ですが必ずしもストーリーの比率が多いからと言って作品の質が低下するわけではありません。

もちろんやろうと思えばギャグを多めにしてストーリーをさっさとやっつけてしまうこともできたでしょう。ですがその場合、ストーリーの深みはこれまた相対的に薄くなってしまいます。最終回を迎えてもその世界が永遠に続くような日常系の漫画の場合はそうした作りでも問題は無いのですが、本作のように大きなストーリーの流れがある作品ではやはりきちんと終結を迎えるのが筋というものです。そして本作はきちんと筋を通しました。本巻全体を通してストーリーの終結に向かっているのです。

そして本作はストーリーの終結を目指すもののギャグも忘れてはいません。これは非常に素晴らしい点です。しばしばストーリーを重視しすぎて4コマなのにオチにギャグが無かったりする漫画も見られるのですが、本作はきっちり4コマごとにオチをつけてくれています。そのためシリアス展開にも関わらずテンポが良く全体的に明るい印象を受けるほどです。ストーリーもしっかりと描き、かつギャグを忘れないという良質な作品に仕上がっています。確かな技量が無ければ『えむの王国』は生まれなかったでしょう。

舞台装置ではない息づいたキャラクター達

4コマギャグ漫画というとキャラクターはそれぞれ属性の寄せ集め、舞台装置のように描かれることがあります。そういった場合、彼ら彼女らは決して成長せず毎回「ネタ」を描くための演者という意味合いしか持ちませんし、持たなくて良いようになっているものです。ですが本作ではそれぞれのキャラクターは段々と成長を遂げてきました。息づいた1つの存在として作品世界内で生きているのです。これもひとえにストーリー要素を取り入れたことによる効果かもしれません。2

ダラス帝国からカスティーナ王国へと派遣されたスパイかつメイドであるミーシャは以前、普通にダラス帝国のスパイとして活動していました。あくまで忠誠心はダラス帝国にあり、カスティーナ王国は敵国だったわけです。ですが本巻で彼女は必死にカスティーナ王国をかばっています。それはカスティーナ王国の面々の優しさにほだされた結果でしょう。彼女は最早どちらの国も大切な葛藤を抱えた人物になりました。これはストーリーが進行しなければ有り得なかった状況でしょう。

また、冷酷な王女だったメディナは兄アレスを慕っているもののアレスはシャルロットにご執心なので少し感情的に嫉妬していたりします。シャルロットはシャルロットで当初子供性を有していたのですが段々と王女らしい風格を備えるようになりました。本人はノーマルなのに国民がマゾヒストという葛藤を抱えているのですが、その点について受け入れ始めてもいます。彼ら彼女らは作品世界内で様々な経験を積み成長をしてきました。物語が終わったとしても、キャラクター達はこれからもどこかで物語を紡いでいるのでしょう。

まとめ

『えむの王国』はストーリー漫画でもあり4コマギャグ漫画でもある作品です。大枠のストーリーの下で各エピソードが展開され、スムーズに終結へと進んでいきます。丁度ストーリー漫画とギャグ漫画の良いところを合わせた形と言えるでしょう。そして何よりストーリーの進め方が上手く、他の巻からこの巻へと続く流れが素晴らしいです。一見関係無いようにみえるサイドストーリー的なエピソードも最終巻へ向かっているエピソードだったりします。

またキャラクターも愛らしい。マゾを主題とした作品ですが要所要所にロリなキャラクターが出てくるので紳士諸氏は満足するはずです。シャルロット自身がロリですし、敵国の王女メディアも十分にロリです。さらにお姉さん的ではありますがスパイなメイドのミーシャもアレン一行のグラディウスとルーシィだってロリ。以外と本作はロリづくしな作品だったりもします。また新たにアレン一行に加わったトンファが隠れてパンを食べている描写はかわいらしさの権化です。

本作は高いレベルで構成された良い漫画作品です。隣り合うコマの内容が繋がっているため自然と読み進めることができますし、そこに不自然さも無くしっかりとオチにはギャグを入れています。本巻に限って言えばストーリーのシリアスさとギャグの軽さのバランスが絶妙で快適です。萌え要素もふんだんに盛り込んでいますしロリだってたくさん登場します。本巻で『えむの王国』は終わりますが読み終わったときにはキャラクター達が自分の心の中に息づいているのを感じることができるでしょう。

オススメ度
★★★★★★★★★☆ ★9

記事担当:くもすい