仙石寛子『三日月の蜜』(まんがタイムコミックス) はまんがタイムホームにて連載されていた表題作『三日月の蜜』を含む作品をまとめた作品集です。

仙石寛子先生独特の、体温が低いけれど、瑞々しくて、ときめいてしまう、そんな恋愛を描いた短編中編が収録されています。

収録作は『三日月の蜜』を筆頭に描き下ろしの『間接、直接』も含めて12作収録。これ一冊で仙石寛子先生の魅力がたっぷりわかる一冊です。

あらすじ

表題作『三日月の蜜』では、主人公の佐倉さんが好きな人へのあてつけから、同性の桃子さんと付き合うところから物語ははじまります。

最初はあてつけだったので、好きな人へのイライラした気持ちがあったりしたものの、いつしかその気持ちは、桃子さんへのドキドキに変わっていって……?

劇的なことがおこるわけでもない二人。だからこそ、静かで、透き通った二人の関係性は落ち着いて眺めていたくなるのです。

感想

“あてつけ”からはじまった二人の仲

主人公の「佐倉さん」はバイト先のカフェの店長「杉さん」に恋心を抱いていました。しかし杉さんはよくお客さんの「桃子さん」にどうやら恋心を抱いていている様子。佐倉さんは桃子さんにアタックしない杉さんにやきもきしていました。

そして鬱憤がたまってしまった佐倉さんが”あてつけ”で桃子さんと付き合うことに。とても可愛らしい桃子さんに、どうしようもなく惹かれていく佐倉さん。しかし、最初は”あてつけ”だったのです。そこに罪の意識を感じる佐倉さん。

その様子が可愛らしく、とくに第三話で桃子さんに「ごめんなさい」と謝ろうとする姿はいじらしく、胸を打たれます。付き合い立ての二人、はじまりが”あてつけ”だった二人。そんな二人の、もどかしい関係性が、また魅力的なのです。

見えない葛藤と気付かされるその気持ち。

そもそもが綻びを生じさせていた二人の関係。桃子さんは”あてつけ”なんて知る由もありませんでしたが、佐倉さんの様子を見ていれば何かがおかしいことに気づきます。だって二人は付き合っているんですから。当然です。

そんな中で遂に破綻が生じてしまった二人。それも劇的なものではなく、静かに穏やかに訪れます。そうするなかで、杉さんへの気持ちと佐倉さんへの気持ちでごちゃごちゃになって、混乱してしまう佐倉さんの様子が第六話で描かれます。

そんな第六話での、「だってもう」「全部なくしちゃいたいんだもん」とこぼす佐倉さんが本当に良い…かわいいです。桃子さんに会いたい気持ちが溢れ出る佐倉さん。その様子を見て杉さんは「やっぱり好きなんじゃないの」と諭してくれる、いい大人です。

「私も 好きっていってみて いいですか」

そうしてこうして再び出会う機会を得た佐倉さんと桃子さんの二人。佐倉さんは桃子さんに、きっかけはあてつけだったことを伝えます。そして、「好きって言われるのは怖い、そう思って貰えなくなるのも辛い」と吐露します。

そんな佐倉さんに桃子さんは「好きよ」ときっぱり伝えます。そして、結局自分が桃子さんのことを好きなのか考えてみてもわからなかった佐倉さんはこう言います「私も好きっていってみていいですか」。そして即座に「言って?」と返す桃子さん。

その言葉をうけて赤面する佐倉さん。その間の取り方・表情が本当に素晴らしい。桃子さんの大人の立ち回りに弄ばれる佐倉さんの様子がとても良いのです。これまで秘密を作られてたこともあって、ますます逆らえない佐倉さんです。

まとめ

表紙の佐倉さんが(ああこれ桃子さんに遊ばれてるな…)と感じられて、一読終えたあとに見るとしみじみとできますね。カバー下にも情報量たっぷりでとてもありがたいですね!佐倉さんは完全に桃子さんのお手玉です……。

仙石寛子先生独特の落ち着いた空気感で、かつ、瑞々しいトキメキが得られる『三日月の蜜』。佐倉さん・桃子さん・杉さんの三人という少ない登場人物の強みを活かし、中編ながらも三人の個性と魅力がしっかりと伝わってきます。

そんな作品集の『三日月の蜜』ですが、表題作の『三日月の蜜』だけでなく、他にも仙石先生らしい、魅力的で透き通った、素敵な登場人物に溢れた作品がいくつも読めます。それもまた、この作品集の魅力となっています。他の作品も気になりますね。

オススメ度
★★★★★★★★★☆ ★9

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