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Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ (1) (角川コミックス・エース 200-1)

2004年に発表されて以降、絶大な人気を誇る「Fate」シリーズ。その原点である「Fate/stay night」とは似て異なる歴史を歩んだ並行世界が「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」の舞台です。とはいえ、完全に独立した作品のため、Fateを知らなくても全く問題ありません。

偶然か、必然か。体内に莫大な魔力を秘めた少女イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(イリヤ)は空から降ってきたうさんくさい魔法のステッキ・ルビーに騙され、もとい協力を乞われて「クラスカード」と戦う運命(Fate)を背負わされてしまいました。

今回ご紹介する「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」は、魔術師たちのいざこざに巻き込まれた可憐な少女たちが、それでも迫る危機に立ち向かう、マジカルアクション・コメディです。基本的にギャグ成分が多めですが、バトルに力が入っているのも本作の特徴です。

あらすじ

冬木市の小学校に通うイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、お兄ちゃんが大好きで、アニメの魔法少女に憧れる、夢見がちな女の子です。名前がドイツ風で、銀髪に紅い瞳で、自宅にメイドがいて、兄とは血が繋がっていなくても、ありふれた女子小学生なのです。

ある日のこと。イリヤは空から降ってきた魔法のステッキ・ルビーの策略により、無理矢理魔法少女にされてしまいました。さらに、ルビーの持ち主だったという魔術師・遠坂凜から大変な事を聞かされます。なんと、イリヤが暮らしている冬木市には、悪用すれば街ひとつ滅ぼせるという危険なカードが眠っているというのです。

ルビーはそのカードを処理するために必要な魔術礼装でした。しかし、ルビーは凜の言うことを聞こうとせず、魔法少女になれるのはイリヤだけ。かといって、放置するには「クラスカード」は危険過ぎました。そこで、凜は一般人を巻き込むことに悩みながらも、イリヤに魔法少女として戦うことを命じたのです……。

感想

平和な街の上空で、いきなり燃え上がる魔法少女

舞台は、冬木市にある穂群原学園前から始まります。仲の良さそうな兄妹にほっこりしますが、そんな彼らの頭上、遥かな空の上では、二人の魔法少女・遠坂凜とルヴィアがマジカルなキャットファイトを繰り広げていました。彼女たちの間には何らかの因縁があるらしく、お互いに容赦というものがありません。不意打ちを受けた凜は既にボロボロ。手にしたステッキの効果でそのうち治ると明言された通り、次のページでは速攻で回復していますが……少なくとも、このシーンを見る限りでは「愛と勇気」「恋の魔法」などといった、魔法少女モノによくあるキャッチフレーズが出てくる見込みはなさそうです。

どんどんエキサイトしていく凜とルヴィアを止めたのは、彼女たちが持つ杖でした。課せられた任務を達成するために、魔術師たちの学舎「時計塔」から貸し出されたこの杖は、意志を持つ魔術礼装「カレイドステッキ」ルビーとサファイア。傍若無人な振る舞いを続ける主人(マスター)に嫌気が差した杖たちは、二人の元から逃げ出してしまいます。ステッキたちの逃亡により、凜とルヴィアの戦いは強制的に終了しますが、この二人は本当に大丈夫なのでしょうか。そもそも、ここまで仲の悪い二人に共同任務を任せてしまって良かったのか、時計塔……。

この場面の見所は、凜とルヴィアのバトル……ではなく、カレイドステッキたちの造反でしょう。意志を持つ強力な武器が、ケンカのために振るわれることを由とせず、より相応しいマスターを探すために独立して動いているのです。「プリズマ☆イリヤ」がテンプレートな魔法少女モノではないことを示す、象徴的なシーンではないでしょうか。とはいえ、ごく一般的な魔法少女モノであれば、同じ任務に携わる仲間を陥れようとすることなど、まずありえない訳ですが。そういう意味で「普通じゃない」という期待を抱かせる、良い構成だと思います。

ラインぎりぎりを攻める描写から繰り出されるギャグ

元マスターたちの諍いに嫌気が差したルビーが、次のマスター候補として目をつけたのは、お風呂場の窓から花火(実際には凜とルヴィアの戦い)を見ていたイリヤでした。お風呂に入っていたということは、つまり、そういう訳で。お湯に隠れてはいますが、初回から小学生に、この描写とは……なかなかに攻めてきますね。ちなみに、凜たちのバトルを花火と勘違いしていたイリヤは、浴室の電気を消せばもっと良く見えると考え、実行に移します。結果、妹が入浴を終えて部屋に戻ったと勘違いした兄のシロウが、タオル1枚で中に入ってくるというラブコメ的シチュエーションが完成。彼は、きっと今後もこういう役回りになるんでしょうね。

そして、ルビーの口車に乗せられたイリヤは、とうとう魔法少女にされてしまいました。直後に訪れた凜から、ステッキがないと困ると聞いたイリヤは、すぐにルビーを返そうとしたのですが、どういう訳かルビーは離れてくれません。これは、カレイドステッキに内蔵された機能のせいでした。ここまで来ると、最早呪いの装備です。こうして、ルビーのせいでイリヤは冬木市に眠る「クラスカード」回収任務に巻き込まれてしまう訳ですが、放課後に早速魔法の練習をしようとわくわくしていたり、嫌だと言いつつも本人は前向きに楽しんでいるのが救いでしょうか。

凜曰く「誰かに見られたら自殺モン」の魔法少女服は、妖精のような雰囲気が出るとても可愛らしいモノなののですが、イリヤ本人としては結構恥ずかしいようです。少女の恥じらう表情は実に良い。ルビーさんは素晴らしい仕事をしてくれました。そのルビーですが、最初にイリヤを騙した手口からして、かなりの曲者かつ不真面目な印象を受けます。素直なイリヤを誘導して凜を攻撃させたり、わざと怒らせるような言動を繰り返して周囲を煽ったり。シリアスなシーンでギャグを飛ばしたり。ごくごく一般的な魔法少女モノなら、真の敵ではないのかと疑う程です。そんな駄ステッキに振り回される少女たちを見るのも、この作品の醍醐味ではありますが。

萌えて燃える、爽快魔法少女バトル!

夢見がちで天然な少女・イリヤが、悪どさと脳天気さが合わさって残念に見えるカレイドステッキ・ルビーを手にしたとき、怖ろしい科学反応……もとい魔法的融合を果たしました。魔術師として優秀な凜やルヴィアですら、練習にまる1日以上を費やした〝飛行〟を「魔法少女は飛ぶものでしょ?」という、アニメ知識から来る思い込みだけであっさり成功させたり、初めての戦いで地面がえぐれる程の魔力斬撃を放つ等、イリヤは成るべくして魔法少女になったと思わせる程のセンスを持っていたのです。こういう「隠されていたパワー」的な設定は、実に王道主人公らしくて心が躍ります。

いっぽう、もう一本のカレイドステッキ・サファイアに認められた魔法少女・美遊は、頭脳だけでなく、運動神経もイリヤを遙かに上回っていました。クラスカードの回収でも、おたおたするイリヤを尻目に、冷静に戦況を見極める目があります。ところが「人間は飛べない」という常識的思考に囚われ過ぎていたがために、浮かび上がることすらできませんでした。クラスカード回収のために、どうしても飛行能力を獲得する必要があった美遊は、これを機にイリヤとの距離を縮めることになります。イリヤも美遊を歓迎し、二人で特訓を開始するのですが、その方法はといえば……まさかのアニメ鑑賞。やはりイリヤは天然入ってます。

そして難敵「キャスター」との戦いです。鏡面界の空に描かれる巨大な魔法陣は幻想的で、そこから放たれる魔力砲を華麗に避けるイリヤ、結局宙を舞うことはできなかったものの、空中に極小の足場を創り出すことで空での戦いを可能とした美遊とキャスターが繰り広げる弾幕バトルは迫力満点です。さまざまな角度から戦いの場面を見せてくれるため、動きのある戦いが楽しめます。最初の戦いではまだ平面的な作画でしたが、このキャスター戦を見る限り、バトル漫画としてもかなり良い出来なのではないでしょうか。

まとめ

第1巻目、かつ作者様の初期作品ということもあり、序盤は絵に堅さが感じられます。しかし、回を追うごとに筆がこなれてきており、登場する女の子たちの魅力がアップしていくのが感じられます。同様に、コマ割りやバトルシーンの見せ方がぐんぐん格好良くなるのが素晴らしいです。魔法少女モノなので、当初は少女たちを愛でる方向に行くものとばかり思っていましたが、想定外の方向に進化し続けています。まさか、魔法少女のバトルでわくわくさせられるとは思いもしませんでした。

巻末にはプリズマ☆イリヤの基礎用語辞典が掲載されており、作品の内容と設定を補完してくれます。本物の辞書のように文字がビッシリ並んでいるため、思わず逃げたくなりますが、これを読むことで「プリズマ☆イリヤ」本編で描かれなかった裏設定を知ることができるため、目を通して損はありません。カレイドステッキの詳細から、下駄箱に入っていた手紙に関する思惑など、どうしてこんなことまで書いてあるんだと、頭を抱えること請け合いです。魔法少女、ラブコメ、バトル、ギャグ、時々シリアス。ジャンル属性てんこ盛りな本作を象徴するコンテンツなのではないでしょうか。

最後に。Fateの世界では他の手段で代替できるものを魔術、そうでない奇跡を魔法と呼び、区別しています。魔術師は魔法を目指して日々努力しているのです。そして、ルビーとサファイアが用いる多元転身(プリズムトランス)は、第二魔法「並行世界の運営」の一端を用いています。つまり、イリヤは文字通り「魔法」少女になったのです。「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」は大元の「Fate/stay night」を知らなくても楽しめますが、知っていると「あのイリヤが……」と頭を抱えつつも、彼女の潜在能力に納得できるでしょう。Fateシリーズのファンにも、そうでない方にもおすすめできる作品です。

オススメ度
★★★★★★★★★☆ ★9

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