深海魚のアンコさん(1) (メテオCOMICS)

『深海魚のアンコさん』は2012年11月から2015年8月までWeb漫画誌のCOMIC メテオにて連載されていた漫画です。人魚が普通に暮らしている世界における女子高生の日常を描いた作品となります。全4巻なのでさくっと読むことができるでしょう。

作品の雰囲気としてはコメディが主体で、特に男子高校生との恋愛はありません。が!女子高生同士の百合とはいかないまでも美しい友情が描かれています。やはり男は不要、女の子だけの世界で良いんだ…と思わせてくれるのです。ただちょこっと男子もいますが。

絵柄は優しくほんわかしたものとなっていて、クセはまったくありません。食べやすいお菓子のような感じなので読みにくいと思われることは無いはずです。また単行本の表紙には特殊加工が施されていて何だか手触りが良かったりします。

あらすじ

舞台は人魚と人間が共生関係にある世界で、そこでは人魚が人間世界に溶け込もうとしている社会が形成されています。日常系の漫画において人魚という設定を加えた感じで、それ以外の要素に変わったところは特にありません。

人魚が地上にある人間の学校に馴染みつつあり、人魚好きな人間の若狭乙見(わかさ おとみ)をガイド役として漫画が始まります。人間の学校に転入してしばらく経つ堤鮟子(つつみ あんこ、通称アンコ)との触れ合いを中心とした物語が描かれるわけです。

いじめっこ気質の鈴木闘魚(すずき とうな)やファンタジー的な福田紅眼(ふくだ あかめ)、それから保健室の先生である阿代黄泉(あしろ よみ)など様々な人魚が登場し、だんだんと豊かになっていくアンコの学校生活や日常生活が繰り広げられていきます。

感想

それぞれのキャラクターが立っているから読みやすい

『深海魚のアンコさん』はそれぞれキャラクターがきちんと設定されているため、読者にとって読みやすい状況が作られています。例えばアンコちゃんは引っ込み思案ですが優しい人物で、いざという時には身を挺してまで他人を救うほどです。造形も特徴的で頭部からはアンコウ由来の誘引突起がかわいくデフォルメされてデザインされていて、セミロング的な水色の髪、透き通った白い肌、深海のように透き通った瞳など…かわいらしさが爆発しているのです。こうした性格付けとキャラクターデザインが明確なため、読者は特に迷う事無く物語を読み進めることができます。

キャラクター作りを成功させている要素に「人魚のモデルとして実際に存在する魚を参考にしている」という点を挙げることができるでしょう。またアンコちゃんの例えとなりますが、初登場シーンには「堤 鮟子 アンコウ目チョウチンアンコウ科チョウチンアンコウ属チョウチンアンコウ」と分類名と共に紹介されています。これは他の人魚も同様で、自身のルーツとなる魚の種類が明示されつつ紹介されるわけです。そしてそれぞれの魚に対応したキャラクター作りが行われているという点には注目しておきたいところです。アンコちゃんは「深海魚なので日に当たらない」イコール「肌が白い」というように設定されています。

他にも主要メンバーの1人であるいじめっこ的な鈴木闘魚ちゃんは「ベタ」という美しい熱帯魚がモデルなのですが、このベタも実際に好戦的だったりしますし「フグ」がモデルの福田紅眼ちゃんは毒を出したりします。どれも際立った性格のキャラクターなので誰が誰だか分からないといった事態に陥ることは無いでしょう。たくさんのキャラクターが登場する漫画では立ち位置がかぶったりするものですが『深海魚のアンコさん』の世界では誰もが個性的な人物なのです。

人魚設定だからこそできるエッチな表現もあるぞ

一見エロとは無縁な絵柄の『深海魚のアンコさん』ですがお色気シーンもいくつかあります。ですがこれ中々特殊なシーンでもあり、最も漫画の設定に即したお色気シーンが「人魚の尾びれの露出」なのです。人魚達は地上で生活する上で人魚薬という薬を飲んで尾びれを人間の足へと変化させて生活しているのですが、この薬が切れてしまうと元の尾びれに戻ってしまうのです。そしてこの尾びれを露出させることは人魚にとってこれ以上無く恥ずかしいことだったりします。「と言われても…」と読者は思うかもしれません。ですがこの露出シーンにおける人魚の表情をご覧頂ければ分かります。まるでとんでもないところを見られたような顔で恥じ入るのです。

人間がどこに色気を感じるかと言うと最早千差万別といった状況ですが、少なくとも表情はかなり大事な要素と言えます。例えばすっぽんぽんで無表情の女性が居るとして、そこに色気があるかというと唸ってしまうでしょう。例えばスカートめくりをする男子とそれを拒んで顔を真っ赤にして「いやーん」何て言う女子がいる伝統的なラブコメシーンがあるとします。このとき、男子はパンツは一応見たいのですがそれよりも「いやーん」と恥らう女子を見たいのではないでしょうか。もしスカートをめくられても女子が無表情でいたり友人との会話を継続したり何一つ反応を示さなければそこに色気は感じにくいものです。

『深海魚のアンコさん』の世界における尾びれの露出はスカートめくりにおけるパンツに相当します。そのためアンコちゃんが人魚薬を忘れ尾びれを露出させてしまったとき、恥ずかしすぎて涙ぐんだりするわけです。その様は正にエロ!人魚にとってルーツとなる反人間的な要素である尾びれを見せることは何か原初的なものを見られた気になるのかもしれません。ただこの尾びれの露出について肯定的に捉えている人魚も存在し、そうした女子達と触れ合うことでアンコちゃんも尾びれに対する考え方を少し省みたりします。実はこの漫画、コメディ的な日常系でもありながらアンコちゃんの成長物語でもあったりするのです。

魅力的な女の子達が続々登場してくる

人魚の女の子達の生活を描いた漫画なのでたくさんの女の子が登場することになります。そしてどれもが魅力的で…たまりません。漫画の主要メンバーとしては先に挙げた「堤鮟子」「若狭乙見」「鈴木闘魚」それから本巻中盤からは「福田紅眼」の4人となります。アンコちゃんはもちろん、鈴木さん(通称ベタ子)が段々優しくなっていく様や若狭ちゃんのストーカーじみた人間への愛情も見所です。福田さんはいわゆる中二病というものに深く罹っているためナイスな言動で周囲を惑わしてくれます。誰もが状況によってボケ役とツッコミ役をこなし、何と言うか仲良し4人組といった感じがとても良く出ているのです。

主要メンバー以外にも魅力的な人魚はたくさんいます。中でも特殊なエロ担当としてニホンウナギをモデルとした人魚の蒲谷木うな(かばやぎ うな)さんを外すことはできません。この蒲谷木さんは何と「緊張したり興奮すると全身からぬるぬるした粘液が出ちゃう」のです。好きな人の前だと当然もう全身がぬるぬるなのです。エロの権化と言えるかもしれません。そんな蒲谷木さんが好きな人へ告白するシーンでは粘液が出まくって制服が透けちゃったりします。黒髪褐色のショートカットでスポーティな女の子がそんなことになって非常にけしからん!のです。といっても全体的に健全な漫画なのでドギツイ描写はありません。

それからホオジロザメがモデルの鮫島夏乃(さめじま なつの)センパイを外すことはできません。鮫島センパイは常にマスクをしていて様々な怖ろしい伝説をもちヤンキーの間で恐れられている存在なのですが、実は…とてつもなくかわいいのです。一級品の美少女だったりします。まずサメらしくギザ歯をしていて、これがかわいい。口を閉じても大きな口が一本線で表現されていてかわいい。それから性格も優しくてかわいい。残念ながら登場頻度の少ないキャラクターですが、その魅力にハートを打ち抜かれること間違い無しです。ストーリーの流れでお着替えをすることになりますが、その姿は「マブい」としか言えません。

まとめ

『深海魚のアンコさん』は誰でも楽しめるほんわかした日常系の漫画です。お色気描写もありますが、描写としては少年漫画のサービスカット的な雰囲気でパンツ1枚出てきません。そのためお子様から老人まで老若男女楽しめる漫画となっています。ですがその設定を生かした色気のある描写が欠かせないのも事実です。即物的、直接的な色気ではなく独自の作品世界の設定を生かした精神的な色気と言う事ができるかもしれません。そのため妄想力が高い方にとってはこれ以上無いごちそうとなります。

色気描写について多くを論じてきましたが、もちろん普通の日常系漫画として楽しむ事もできます。というかそれが普通の読み方です。アンコちゃんを中心とした様々な学校生活の場面をのんびり楽しめます。特に肩肘張った漫画ではないので、疲れて癒されたいという方にとって相応しい漫画と言えるかもしれません。かわいい女の子が登場して恥らったり頑張ったりする普通の生活を描いた秀作です。読みやすさとかわいらしさに重点を置いている漫画なので誰もがアンコちゃんの魅力にほだされてしまうでしょう。

また、場面設定があくまで現実の高校を舞台にしているところも作品世界に没入しやすい特徴と言えるでしょう。人魚と言う異質な設定を盛り込んだ作品でありながら違和感無く読み進めることができるようになっています。様々な点で読者が読みやすい作品となっているわけです。それからアンコちゃんを取り巻く周囲の人々が基本的に人魚を肯定しているのが良いですね。人魚という存在を考えた場合、いくらでも不幸な話を考えることはできますが誰もが肯定することに徹底しています。つまり余計なストレスを感じずに楽しめる作品になっているということです。

オススメ度
★★★★★★★★☆☆ ★8