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ケイくんとアヤメさんがルームシェア(1) (アクションコミックス)

『ケイくんとアヤメさんがルームシェア』は『蒸し暑いからぬぐー』や『もえよん』の著者ボマーン氏による作品です。12歳小学6年生男子の「鈴森ケイ」と29歳OLの「アヤメ」の同居生活の様子を描いた日常系の4コマ漫画となります。

ただ日常系といっても時間がとまっている訳では無く、登場人物は段々と時間の経過と共に成長していきます。こうしたほのぼの系4コマ漫画では登場人物の年齢が止まって永遠に学園生活をしているという設定が多いものですが、本作では異なるのです。

しっかりもののケイくんと色々と抜けた所のあるアヤメさんとのやり取りがハマっていてテンポよく読むことができ、読者は自然と作品世界へ引き込まれて行くでしょう。果たしてケイくんとアヤメさんの2人の行く末はいかに…。

あらすじ

親が音楽家でツアーのたびに引っ越すのが嫌になったケイくんはルームシェアをすることになりました。まだ小学6年生なので保護者が必要なのです。そこでケイくんは親の紹介でアヤメさんと一緒に住むことになるのでした。

29歳OLのアヤメさんはケイくんの「お父さんの弟のお嫁さんのお友達のお兄さんの娘さん」で、つまるところ赤の他人です。「お友達の」という要素が入ることで身内でも何でもありません。ケイくんはお姉さんであるアヤメさんを意識していますがアヤメさんはケイくんのことを子供だと思っています。

小さい頃から1人でいることの多かったケイくんは家事全般をそつなくこなし、仕事で忙しいアヤメさんは家事全般を全くできないという一見アンバランスな関係の2人に加え、ケイくんの同級生やアヤメさんの同僚も巻き込んで作品世界は次第に豊かなものとなっていきます。

感想

年齢差のある男女という珍しい設定の萌え漫画

本作の特徴としては男子小学生と女性OLの同居、という珍しい設定を挙げることができます。ケイくんは12歳でアヤメさんは29歳と、その年齢差なんと17歳となるわけです。一見恋愛に発展しそうも無い設定ですし、アヤメさんの29歳という年齢はヒロインの女性として高めと言うことができるでしょう。もしこうした設定で萌え漫画を描くのであれば小学生男子と高校生女子か大学生女子といったところが適しているように思えます。それならまだ恋愛関係になったとしてもまだ自然だからです。

ですがアヤメさんは紛うことなき29歳。12歳のケイくんにしてみればお姉さんというより年の離れたイトコや若いお母さんという方が適切かもしれません。17歳という年齢差はそうそう2人の関係を埋めることはできないものなのです。ですがこの大きな年齢差こそが作品にユニークさを付与しています。「恋愛関係にそうそうならない年齢差」だからこそ描ける恋愛に到る過程があるのです。一見恋愛関係になるはずの無い関係だからこそ恋の芽生えを描けるということなのでしょう。

また、少女漫画やアダルト漫画ではよく少女が男性教師に惚れてしまうという状況設定の作品を見かけることがありますが、本作ではその関係性も男女逆となっています。また作品の舞台が学校ではなく自宅であることや、生活風景を描いているため恋愛以外の要素も豊富に含んでいるため奥の深い作品となっているわけです。本作は単純な性愛だけで構成されている作品ではなく、登場人物の生活や心情をよく描いています。萌え漫画にありがちな記号的な世界観ではなく、登場人物の息遣いが聞こえるような作りとなっているのです。

時間と共に成長していく登場人物たち

日常漫画の代表格『サザエさん』の世界は数十年前から一貫して時間が止まっています。イクラちゃんもタラちゃんも永遠に大人になることはありません。日常生活を描く作品では登場人物が成長してしまうと舞台設定自体が変わってしまうので難しい状況が生まれるわけです。そのため様々な日常系の作品の世界は四季がループしたような世界となっています。ですが本作では異なり、登場人物は時間の経過によってきちんと成長していくのです。

先述したように、登場人物が成長すると日常生活を描く漫画として舞台設定が崩壊することになり、作品は恒常性を保てなくなります。ですが特に日常系の漫画を描こうとせず、作品世界を完結させるという目的をもっているのなら登場人物は成長させるべきと言えるでしょう。そして本作はそうした意図をもって描かれた作品と言うことができます。時間の流れごとに登場人物の心情は変化し状況も変わっていきます。これは普通の日常系漫画では描けない部分なのです。

本巻ではケイくんの小学校卒業と中学校入学をもって締められます。次巻から中学生になったケイくん及びその他の登場人物の心情などが変化し盛り上がっていくので、本巻はその下ごしらえの部分と言えるかもしれません。それでもケイくんは段々とアヤメさんを意識するようになっていきます。12歳だというのにはしたない!というよりは12歳だからこその混乱と言えるかもしれません。奔放なアヤメさんに振り回されるケイくんの様子を楽しみましょう。

脇を固める濃いキャラクターたち

『ケイくんとアヤメさんがルームシェア』という作品のタイトルにはケイくんとアヤメさんの名前が入っていますが、何もこの2人だけが登場するわけではありません。他にも濃いキャラクターの脇役達が3人登場します。それはケイくんに片思いの感情を抱く「屋島莉里(やしまりり)」とその下僕「宮本くん」それからアヤメさんの同僚「三本松セイジ」です。いずれもメインキャラクターの2人に負けず劣らずの特徴をもっていて作品をより豊かにしてくれています。

まず屋島さんですが、かなりのヘタレでケイくんを好きなのにも関わらずもじもじしていたりします。そんな屋島さんがどうやってケイくんと接触を図るかというと、下僕である宮本くんを使うわけです。ケイくんの前では赤面しろくに言葉を発することのできない屋島さんですが、宮本くんに対しては高圧的で命令口調だったりして任務が成功すれば「リリ様の星」という謎のポイントめいたものをくれたりします。屋島さんとケイくんと宮本くんの三角関係にも注目したいところです。

アヤメさんの同僚である三本松セイジはまた強烈なキャラクターで、とにかくナルシストです。実際にイケメンだったりするのですが、自分をこよなく愛しています。また興味深い設定としては「ナルシストなのに嫌味じゃない」という点を挙げることができるでしょう。セイジはとにかく自分の事が好きですが、だからといって他人をけなすことは決してありません。ナルシストというアイデンティティを社会的に適応するよう昇華させた立派な人物だったりします。なかなか他の作品では見られない魅力的なキャラクターです。

まとめ

本作『ケイくんとアヤメさんがルームシェア』はキャラクターが人間として魅力的に描かれている日常系の萌え漫画です。記号化されたキャラクター像ではなく、1つの存在として描いたような作品と言えるでしょう。登場人物たちはそれぞれが成長しそれぞれにバックグラウンドを抱えています。日常系漫画でありつつストーリー漫画であるような、不思議な作品です。また萌え漫画でありながら登場人物が成長するという点も見過ごせません。

登場人物が成長するということは作品が永遠のものではないことを意味しています。日常系の萌え漫画というのは永遠不変の楽園を描いたものが多くあるのですが、本作はあくまで現実に根本を置いているのです。こうした成長要素を取り入れることは登場人物の関係性を変化させるものであり、だからこそ描ける恋の形もあるということを本作は証明しています。毎回同じようにほのぼのした話が続く萌え漫画を読みなれた方にとって新鮮な作品として映るかもしれません。

また、本巻は最終巻である2巻の下ごしらえ、下準備的なものです。本格的に大きな展開が待ち受けるのは2巻からとなっているので楽しみにしておきましょう。小学生時代はケイくんがアヤメさんを一方的に意識することがある程度だったのですが、中学生を迎えたケイくんとアヤメさんを取り巻く状況はまた少し異なるようになります。新しいキャラクターも登場しますます賑やかになる2巻を楽しむためにも、本巻をじっくり読んでみて下さい。

オススメ度
★★★★★★★★★☆ ★9

記事担当:くもすい

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