東方鈴奈庵 ~ Forbidden Scrollery.-1 (角川コミックス)

魅力的なキャラクターと美麗かつ避ける事が非常に難しい弾幕、そして何よりも心に響くBGMで人気を博した同人STG東方projectの書籍化シリーズの一つ……それが東方鈴奈庵です。

私は東方シリーズに数年前からのめり込んでいましたが、さらにキャラクターの事が知りたいと思い立ち購入しました。すると、この作品は単なるキャラクター物に留まらない魅力にあふれており、筆者は数日も立たないうちに既刊文を全て購入してしました。

可愛らしいだけではなく、少しだけシニカルな面を持つ東方シリーズの魅力を一層引き出すことに成功したこの一冊の素晴らしさをこの記事で紹介していきます。素敵な巫女さんと普通の魔法使い、そしてあらゆる書物を読む事ができる程度の能力を持つ少女の織りなす物語をお楽しみください。

あらすじ

幻想郷の人里にある貸本屋「鈴奈庵」の店主の娘・本居小鈴は誰にも解読できない不思議な本・「妖魔本」のコレクターです。ある日突然、彼女は能力に目覚め、妖魔本を読むことができるようになりました。

そんなある日、とある神社では魔法使いの魔理沙が、妖怪退治や異変の解決を得意とする巫女霊夢に鈴奈庵で妖魔本を発見したと報告します。調べに来た二人に妖魔本を見せびらかす小鈴。

妖魔本を集め続けたら危険ではないかという霊夢の指摘に、もしも危険な事件が起こったら霊夢に解決をお願いすると小鈴は笑顔で答えました。この少し危ういようなやりとりをきっかけに、小鈴と霊夢と魔理沙の視点を中心として幻想郷に時たまに訪れる異変の物語が始まります。

感想

春河もえ先生が描く美麗なイラスト

この東方鈴奈庵の何よりの見どころは、作画を担当する春河もえ先生が描く世界全てと言っても過言ではないでしょう。キャラクターの活き活きとした表情と挙動、凄まじいと言っても良い程の背景の書き込み、そして時には迫力やおどろおどろしさを持つ「妖怪」の登場・・・・・・と漫画の一コマ一コマに魅入られてしまう程の高い作画レベルには圧巻の一言です。キャラクターが生きていると錯覚するほど、様々な表情が描かれており、よりキャラクターの魅力が引き出されております。

全ての表情が可愛らしいのにキャラクター毎に様々な顔付きのパターンに分かれている。文字にするのは簡単ですが、これは中々見ることができない高い表現力です。また、漫画的な演出の質も相当に高く、擬音表現のレタリングやキャラクターへのカメラワークも注目してみると丁寧に練られていることがわかります。この作り込みが物語の迫力とキャラクターの持つ魅力を引き出していると言っても良いでしょう。

総じて、春河先生は昨今の漫画家の中でも非常に高い画力を持っていると言えるでしょう。その繊細かつ綿密なタッチは、時に物騒でシニカルなやり取りをしながらもどこか可愛らしい東方シリーズと非常に高い相性を誇っています。ついつい魅入られてしまうこと間違いなしです。この1巻では66・67ページの煙々羅の見開きが特にここまでの弁を体現する素晴らしい出来上がりです。また、122頁の小鈴の表情も可愛らしさという点で満点レベルです。

「妖怪」を取り扱った作品としても高い完成度

この作品では、少女の容姿を持つ妖怪だけではなく時に、おどろおどろしい人間とは完全に姿形が異なった妖怪も登場します。そのような妖怪達がもたらす異変の謎を突き止め、解決していく……この一連のストーリーも東方鈴奈庵の魅力の一つです。東方シリーズの原作であるZUNさんが筆を取り、幻想郷に起こる異変や事件、そしてそれを解決するキャラクターのやり取りをプロットに起こしています。

起承転結が効いたメリハリが有るストーリーで、読者側も異変や事件をどのような妖怪が引き起こしたのか、そしてどんな風に決着を付けるのか気になり作品に引き込まれて行きます。異変や事件を引き起こす妖怪も実在の妖怪に基づいており、ちょっとした知識を身につけることができます。もう一つの見所として、普段はどこか抜けていて可愛らしい霊夢が幻想郷の巫女として本気を出して妖怪と対峙する姿は、先程紹介した春河先生の高いレベルの作画も相まって、迫力が有り魅せられてしまいます。

また、妖魔本を収集して入るだけあり、小鈴はトラブルメーカーの側面も持っており、場合によっては彼女の行動や妖魔本が発端となって起こる異変も有ります。そんな小鈴をどこか憎めない少女としているのはZUNさんの脚本と春河先生が描く表情の両方が合っての事であると言えます。そして、STGの東方が見せていたキャラクター同士のたまにシニカルで少し物騒、だけど抗いがたい魅力を持つ独特のやり取りも健在です。この掛け合いで東方に惹かれた方も居るのではないでしょうか。

気が付くとニヤリとしてしまうファンサービス

筆者が東方鈴奈庵をオススメする際にどうしても外せないポイントが有ります。それは、頁の所々にストーリーには関わっては来ないけれどもの様々なャラクターが描き込まれている事です。目を惹いてわかりやすい所から些細な遠いカメラワークの背景まで本当に時たまに、所々に描かれています。どのように描かれているのかこの1巻で例を挙げていくと、あるキャラクターはセリフの具体例として登場しており、また別のキャラクターは冬の訪れの季節でどのように過ごしているか、飛び回っているかが描かれていたりしています。

ついついどんなキャラが登場しているか一頁を見る目に力が入り、より美麗な作画を堪能させてくれます。この所々にキャラが登場する演出は幻想郷にはたくさんのキャラが存在することを改めて認識させてくれ、世界観をより強固にしていると言えます。さらには、東方シリーズのキャラクターをあまり知らない方への紹介にもなっており、このファンサービスをきっかけにキャラクターとその出演作品について新しい出会いを見つける事が出来るかもしれません。

このキャラクターを所々に描写すると言うファンサービスは春河先生の画力の高さも有り、この作品の持つ魅力を深めていると言えます。この要素のおかげで私が書籍の東方シリーズの中でもこの作品を、東方についてあまり知らない方にも紹介したくなってしまうのです。一つの巻に何人いるか数えてみても楽しいかもしれませんね。

まとめ

この東方シリーズの書籍作品「東方鈴奈庵」は東方を知っている人、東方に少しでも興味がある人の両方に知ってもらいたい作品です。舌を巻くほどの画力を持つ春河先生のイラスト、ZUN氏の良い意味で歴史や妖怪についての薀蓄が詰まったストーリー、そしてメインキャラクターだけではなく様々なキャラクターが幻想郷で過ごしている事を感じ取ることが出来るファンサービス。この3つの要素が鈴奈庵を素晴らしい作品にしております。

この1巻では主に小鈴ちゃんがどのような性格の女の子なのかについて焦点を当てたお話が多く、これからこの物語の時に中心、時に一般人から超常を見た際の客観的な視点を担当する彼女について知ることができます。さらに、霊夢と魔理沙、そして小鈴の友人の阿求の基本的な人柄も知ることができ、妖怪サイドとしての視点を担ってくれるマミゾウが登場するのでそう言った意味でも物語の導入として必要不可欠な巻です。

コアな東方ファンも幻想郷の世界観とはどういった物なのかを知ることができ、東方をあまり知らない人もこの物語をきっかけに東方と言う作品に入門してみることができる。あらゆる層を満足させてくれる東方シリーズの番外編として珠玉の一作です。是非ご一読してほしい所です。最後にこの1巻では番外編が収録されており、その物語は単純にシナリオが面白いだけではなく小鈴の作中の状況を一目で理解する一助となっています。さらに、設定資料集も巻末に記載されているので必見ですね。

オススメ度
★★★★★★★★★☆ ★9