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七億円を手に入れた僕にありがちなこと。(1) (角川コミックス・エース)

キャッチーなタイトルが気になって手に取った『七億円を手に入れた僕にありがちなこと。』はホラー要素が満載の作品でした。

表紙の美少女とどことなくゆるさを感じるタイトルに惹かれて手に取ると騙されます。間違っても「ハーレム&ラッキー系」のマンガではないのです。

ラッキーもスケベもあるのに、それ以上にお金に魅入られた人の怖さや主人公の疑心暗鬼を描いた作品であり、人によっては全く受け付けない可能性があるほど『怖い』マンガになっているのです。

あらすじ

ごく普通の高校生として暮らしていた伊月は一等前後賞あわせて7億円の宝くじを当選させてしまいます。しかし、大金を手に入れた直後から伊月の運命の歯車が狂いだします

父は当選金の半分をもってどこかへ消え、入れ替わるよう生き別れの妹を名乗る人物が現れて同居せざるを得なくなります。そして、当選がでた宝くじ売り場が特定されたことで、当選者特定をしようとする人々が徐々に増えていくのです。

信用できる人間がいない中、伊月は精神的に徐々に追い詰められていきます。果たして、伊月は平穏な日常を取り戻すことが出来るのでしょうか。

作品の見所

美少女とのハプニングが続出?!

作品の見所の一つになっているのが美少女たちとのハプニングです。伊月の周りには美人の幼馴染や突如現れた生き別れの妹など、フラグが立つキャラクターが複数配置されています。一瞬でフラグがクラッシュされるキャラクターもいますが、フラグが立つ余地自体はあるのです。

彼女いない歴=年齢の伊月ですが、宝くじ当選と前後して女性との接点が一気に増えます。秘密の口止めにと美人の先輩から迫られたり、お風呂上りの妹のタオル姿を目撃したりもします。特に重要なのが妹の夏乃が伊月好みの美少女であり、初対面で好意を抱いていることが本人にもバレてしまったことです。

兄の感情を知った夏乃は、「兄妹で妙な雰囲気になるのが嫌だから」という理由で一緒にお風呂に入ろうとするなど積極的に動きます。お風呂に入ろうとしたらラッキースケベというテンプレは木っ端微塵に粉砕されます。まずは「妹の裸にも慣れよう」いうスパルタ式で、ラッキーを通り越して拷問なのでは? と疑問に思うレベルになっているのです。なお、お風呂シーンでは湯気が良い仕事をしています。

お金に振り回される人間のリアリティが怖い!

本作の見所になっているのが、お金に振り回される人間のリアリティです。ポイントになるのが、現実でも宝くじ1等がでた宝くじ売り場の情報は出てしまうことです。さらに、宝くじ売り場で伊月が宝くじを換金しようとした場面を目撃した人がいるため、『伊月の学校に当選者がいる』という噂が広まってしまうのです。

さらに、噂を元に誰が本当の当選者かを調べるための競争が始まります。ネット上では様々な情報を元に誰が当てたかを推測する様々な議論が巻き起こります。ネット炎上で名前が住所が特定されるように、宝くじを当てたことを隠している伊月も特定されてしまう可能性が出てくるのです。

情報が絞り込まれるにつれ、周囲の人間の行動が大きく変化していくのも特徴で、本作の恐ろしさを強調する部分になっています。本来ならありえないようなディフォルメも織り交ぜられていますが、その根本にある『お金への欲求』には得体の知れない説得力があります。その説得力こそが、この作品を『サイコホラー』として成立させる要素になっているのです。

無知であることと未成年であることの怖さ

この作品は、伊月に感情移入が出来るかどうかで怖さの度合いが変わってきます。大金を手に入れても使ってしまえば問題ないと考えることもできるため、「なぜ伊月はお金を使わないのか?」と考える人もいるはずだからです。ただし、伊月がお金の使い方自体を知らないことまで考えると見方が変るはずです。

伊月は普通の高校生として暮らしていたため、お金の使い方自体を思いつかないのです。また、親は父親のみで経済的に恵まれた環境とは言えず、銀行口座も持っていない状態です。そのため、『7億円を自宅に持ち帰る』というミスまでしてしまいます。お金に関する教育をすべき父親は真っ先にお金を持って行方をくらませるため、「何をどうすればいいのか?」指針を与えてくれる人が全く存在しないのです。

何かを調べて行動するのにもリスクがあります。しかし、伊月はそれまで特別何かにチャレンジして失敗した経験も、学習した経験もありません。何か一つでもミスをしたら「誰かにだまされて7億円を失うのではないか?」という漠然とした恐怖だけがあるのです。初めてのお使いで店ごと買えるような大金を持たされたようなもので、戦い方も失敗して失うものも予想がつかないからこそ、怖さが際立つのです。

まとめ

まとめてしまうと、かなり胃にくる作品でした。伊月の感情や背景を読み取れるようになると、人間不信の底なし沼にはまっていく感覚がよくわかります。しかも出口が見えないまま事態が悪化していくため、真綿で首を絞められていくような圧迫感があります。

思春期男子特有のプライドによって妹からの助言が素直に受け入れられないなど、青春あるあるネタも織り込まれています。ただし、それで乗り切るには伊月の経験が圧倒的に不足していて、どのように物語が進んでいくか予測がつかないのです。

「そんなことはどうでもいいから、美少女のお色気シーンをよこせ!」など、割り切れる人は幸せです。ホラーを楽しみたい人にもおすすめはできますが、異世界転生もののようなチートでハッピーな展開を予測すると裏切られますのでご注意ください。

月10冊程度、年間100冊超の漫画を読むフリーライター。非定期で友人と百合漫画を語る会を開きますが、ジャンルは不問で何でも読みます。

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