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兄の嫁とくらしています。3巻は、兄を亡くした女子高生「志乃」と、血のつながらない義理の姉「希」が繰り広げる日常を扱ったマンガです。ギャグをところどころに挟みつつも、なくなってしまった存在が不意に胸をさす瞬間や、血のつながりのない関係という不安定さが胸を締め付ける巧みな構成が特徴です。

3巻は「兄」がなくなってからはじめてのお盆を扱っていて、家庭環境の複雑さや兄がいない喪失感が改めて浮き彫りになるシーンがあります。重くなりがちなシーンがある一方でしっかりとフォローが入るため、テンポよく読めるのも魅力です。

自立したいと考える志乃と支えたいと思っている希が衝突するシーンなどもあり、二人のなかが深まっていく姿が丁寧に描かれています。また、しっかりとサービスシーンも存在し、特に二人がお風呂に入るシーンとその前後の掛け合いは必見です。

あらすじ

両親を早くに亡くし、兄も亡くした志乃は、兄の嫁である希と一緒に暮らしています。2巻で志乃は希が誰か違う男性を好きになったらどうなるのだろうと考えるようになっていて、不安を抱えながら自立を目指す方向に向かっていきます。

一方の希は志乃の様子がおかしいことに気づきつつ、話をしてくれるのを辛抱強く待つことを選択します。頼ってきてくれた時は甘やかし、志乃の気持ちに触れるたびに癒されている自分にも気づいている状態になります。

志乃はなるべく迷惑をかけたくないからと希に内緒で行動を始め、二人の気持ちにすれ地画が生じはじめます。ところが、とあるきっかけで希は志乃が隠し事をしていることに気づいてしまい騒動が巻き起こるのです。徐々に関係を深めていた二人が、騒動を起こすことでどのような距離感に落ち着くかに注目です。

感想

胸を深く刺す喪失感と、軽快なギャグが混ざるのが魅力

兄の嫁とくらしています。の全館に共通しているのが、兄がいないことによる喪失感です。最愛の存在がいなくなったのは志乃も希も一緒であり、それぞれに抱える孤独感や喪失感は似て異なるものになっています。それぞれの視点で喪失感が丁寧に描かれているのも特徴で、自然に読者の共感を呼ぶ構成になっているのです。3巻でもストーリーが見事にはまっていて、キャラクターたちの感情がよく動き、共感を呼ぶ形になっています。例え誰かを亡くした経験がない人であっても、寂しさや痛みなどを思い起こさせるようになっているのです。

重くなりすぎないように救いのシーンやギャグシーンをたくみに入れているのも魅力です。オタクネタも含めた軽快なギャグや、どうしてそういう発想にいたったかまるで読めないような高度なギャグも存在します。話のテンポやキャラクターの個性にマッチしているため、ある程度とっぴなネタが入っても自然に見えていしまうのです。中二病的な表現をネタとして使ったり、社会問題を風刺的に取り入れるなど切り口も多彩です。脇役にポジティブなキャラが多いのも貢献してくれています。

全体を見ても非常にメリハリがよく、楽しく読めるようになっています。胸を指すテーマを扱っているのにほんのり気持ちが軽くなったり、余韻に浸れるようになっているのが素晴らしいです。秀逸なのはおまけマンガの存在もあります。書下ろし漫画が多めに入っていて、センチメンタルに沈みそうな気持ちを強制的にほっこりモードや笑いモードに変えてくれるのです。特にカバー裏のおまけ四コマはファンサービス精神が強めで、百合好きにはたまらない内容になっています。

作画の問題が見えるシーンも若干ある

ストーリーや人物描写が素晴らしい【兄嫁】ですが、作画技術の問題が見えるシーンもあります。特にキャラクターの正面画のタッチがぶれやすく、魅力が伝わりにくい場合があるのです。横顔などの描写にブレは少ないため、余計に正面アップのギャップが目立つようになってしまいます。くずしろ。先生は連載作が多い人気漫画家になりつつあるため、スケジュールの管理などは大丈夫なのだろうかと心配になったりもします。コマ割が良くても生かしきれていないと感じるシーンもあるため余計に印象が強くなります。

また、救いのシーンが後回しにされているキャラがいる点にも注意が必要です。家庭環境が荒れていて、色々悩んでいるサブキャラが登場します。現在は複線状態になっているため、どのような救済策が用意されているのか予測も出来ないのです。救済自体が行われない可能性もあるため、サブキャラのほうに感情移入してしまうともやっとした読後感になってしまう恐れがあります。特に小さい子供に感情移入してしまう人は刺さりすぎる恐れがあります。

胸に刺さること自体は悪いことではないものの、どう感情を処理するか迷う部分もあります。一方で、人の感情を動かしてしまうマンガは良くも悪くも影響力があるため、精神的に余裕があるときに読んだ方がいいこともあります。フィクションではなくリアリティ重視の人物描写であり、少数派になりがちな人物も書かれているため、普段ひっかからないような人も反応してしまう場合があります。ギャグだけでも、癒しだけのマンガでもないため、どこか一部を切り取った印象で見ないことが大切です。

貴重なシーンも多めになっているのが3巻

兄嫁3巻は貴重なシーンが盛りだくさんになっています。1つは希がメガネをかけて車を運転するシーンです。ストーリーが新盆の前後を扱ったもののため、フラストレーションを発散しようと志乃とデートを切り出すのです。希は普段メガネをかけておらず、単行本カバー裏のおまけ漫画だけでしか見れなかっただけに貴重な姿となっています。メガネ好き必見です。また、希の真面目で頑固な部分がわかるシーンも盛りだくさんになっています。

志乃と希が一緒に入浴するシーンもあります。志乃の視線がどちらかと言うと男子よりなのは脇におきます。結局漫才のようなやり取りが続いてしまったり、志乃が希のお願いを断りきれない部分などが良く出ています。また、お風呂シーンに入るまでの導入と一緒に入るにいたるやり取りは必見です。湯気がいい仕事をしているため、サービス度で言えば少し低めになっています。家庭でそこまで湯気が出るとかどうなんだとかそういうツッコミは無しです。

今回もおまけマンガの充実度は非常に高くなっています。書下ろしが5ページと、カバー裏に書き下ろし4コマが入っているからです。雑誌のほうで読んでいてもおまけでしか読めない情報があるため、単行本を購入する価値があります。新たに登場するキャラクターも個性豊かな人物ばかりで、しっかりと話の要所を締めてくれるなど活躍してくれます。次以降の伏線も多めに張られているため、注目のポイントになっています。志乃の独り立ち願望がどうなるかも見所と言えます。

まとめ

兄嫁3巻は喪失感の確認と、お互いの距離の確認が主な内容になっています。志乃が独り立ちをするための準備をする一方で、希がどう考えているかを良く考えていない部分もあり、お互いを見直すきっかけになる巻でもあります。こじれるのかすれ違いが続くかは読んでみてのお楽しみですが、読後に不快感がないのはさすがと言えます。また、胸を指すのとほっとするシーンのバランスが良く、どちらかに偏りすぎないのは評価される部分になります。

若干心配なのは作画で不安になるシーンが増えたことです。2017年夏はくずしろ。先生の新刊ラッシュになっていて、クオリティが維持できるのか心配になってしまいます。ストーリーが良いだけにもうっちょっと力を入れて欲しいと思うシーンがあるのも事実だからです。ただし、コマ割やテンポ自体はよいので、あまり気にならない人もいるはずです。悪い部分と言うよりも欲が出てそう見える可能性もあるため、人によって判断が分かれるからです。

全体的なクオリティが高く、次も買って読みたいと思う構成でした。マンネリ化することなくそれぞれの人物の気持ちを丁寧に描写していて、どの人物がどんな気持ちで志乃や希を見守っているかもわかりやすくなっています。また、あえて語りすぎないのもポイントで、匙加減が絶妙です。作者の押し付けが出てしまうと繊細なストーリーが壊れかねないため、非常に丁寧に扱われているのがわかります。今後も楽しみで、二人の行く末を見まもりたくなるマンガでした。

オススメ度
★★★★★★★★★★ ★10

月10冊程度、年間100冊超の漫画を読むフリーライター。非定期で友人と百合漫画を語る会を開きますが、ジャンルは不問で何でも読みます。

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