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『コーヒーカンタータ』は地軸のズレによる気候変動で、日本でもコーヒーが栽培できるようになった世界のお話です。コーヒーを愛し、コーヒーを学ぶためにとある温泉街を訪れた琥珀は、そこで学園生活を共にする友人たちと運命的な出会いを果たします。

ちょっと特殊な世界で特殊なコーヒー豆が登場するファンタジー要素の入った作品ですが、実際の中身はかなりの骨太です。おいしくコーヒーを入れるための所作や気持ちの入れ方に触れられていて、データでの学びではなく実際にコーヒーをいれ、飲むための楽しみ方を教えてくれる本になっているのです。

ただし、難しい情報として押し付けるのではなく、ふわっと香る程度の主張になっているのが魅力です。あくまで主人公の琥珀と友人たちの交流を通し、人間として成長していく姿や、コーヒーの魅力を伝えてくれる作品になっているのです。

あらすじ

地軸がズレ日本がコーヒー栽培に適する地域になった世界で、コーヒーを愛する少女である琥珀はコーヒーを学ぶための学校に入るためコーヒーが名産の温泉街を訪れます。ところが生粋のお嬢様で外出もしたことが無い琥珀は街についてすぐさま財布を無くし、道にも迷ってしまいます。

琥珀を助けてくれたのはギャル系の格好をした少女ミルでした。財布を捜すうちに雨に降られ雨宿り先を探していた二人は、丘の上の小さな喫茶店でコーヒー色の肌の少女モカと出会います。モカは二人のためにコーヒーを入れようとしますが、全くコーヒーを淹れたことが無いため、逆に琥珀にコーヒーを淹れてもらうことになるのです。

コーヒーが結ぶ縁でモカの祖父に気に入られた琥珀は、モカの家に下宿しながら学校に通うことになります。琥珀はケガをしている祖父を助けたいモカと、入学のための説明会に参加してナイスミドルなイケおじに一目ぼれしたミルと共に、ともに学園生活を過ごすための試練に挑むのです。

感想

新機軸でつむがれる、コーヒーの世界に生きる少女たちの物語

コーヒーカンタータは時軸のズレによって日本がコーヒー栽培に適した地になると言う、大胆な設定を取り入れています。現実のコーヒーは沖縄でも栽培が難しいほどです。品質面で最高級品のコーヒーが生まれる条件が揃っていないのです。ところが、気候変動を武器に、世界に通じるコーヒー豆の産地として日本を再設定してしまったのです。コーヒーを中心に世界をデザインすると言う大胆な手法で、新しい世界にアプローチしているのが特徴なのです。

ただ世界を改変するだけでなく、スペシャルティコーヒーの産地を舞台にコーヒーを学ぶ学校を作るなど、工夫も凝らされています。1巻は学校入学までの話を扱っているため技術的な情報などは少なめですが、その分コーヒーを入れる心構えなど、おいしいコーヒーを淹れるための基本的な情報が含まれています。技法ではなく人のために入れるという大切な姿勢が入っているのが特徴で、押し付けにならないように配慮されているのが魅力です。

主人公琥珀の成長と技術的な情報が密接に結びついているのもポイントです。琥珀は優れた技術を持ち、おいしいコーヒーを淹れることができます。ただし、個性的なコーヒーを淹れられないことが悩みになっていて、モカの祖父に淹れて貰ったコーヒーを味わってから少しずつ自分いに足りない何かに気づき始めるのです。1巻時点での成長はわずかですが、今後の伸び楽しみになるような描写もあります。ストーリー構成的にも無駄が少なく、あくまで少女同士の心の交流として楽しめるように出来ているのが魅力です。

架空のコーヒー豆が出てくるため知識があると邪魔されやすい

コーヒーカンタータの悪い点は、架空のコーヒー豆が出てくることです。ファンタジーの存在として受け入れられる人がいる一方で、あまりにコーヒーの知識が多いと受け入れられない可能性が出てきます。良くも悪くも好みが分かれる話になってしまうため、コーヒーマンガに何を求めるかで全く読めない人が出てくる可能性があるのです。実際にカンタータを飲んだ際の味の描写も出てきますが、ごく一握りのスペシャルティコーヒーを飲んだ経験がない人には想像し辛いのも難点です。

作中のカンタータに近い味わいのコーヒー豆自体は存在します。ただし、口に出来る人があまりにも少なく、購入する機会もほとんどないものです。また、スペシャルティコーヒー自体は豆の個性を味わうものになっています。個性が様々なため、全く違う方向性のものを呑んだ際にダメージが大きくなるのです。好きなコーヒー豆やブレンド比率が決まっている人もいるため、何をよしとするかでも判断がわかれます。嗜好品だからこそ好みの差が出やすいのです。

どちらかと言えば、コーヒーを全く知らない人の方が世界観も含めて楽しめるマンガになっています。コーヒー豆の違いや、数字によるデータなどを重視する人は1巻では満足出来ない可能性が高くなります。1巻で登場するのは布を使ってコーヒーを淹れるネルドリップと、アレンジコーヒーの造り方程度です。コーヒー豆の収穫方法なども若干触れられますが、マニア向けの内容ではなくなっています。娯楽として楽しめるかも含めて、コーヒーを扱うこと自体がハードルになるケースがあるのです。

琥珀がコーヒーを飲んだときの表情の変化に注目

黒髪ロングのお嬢様で、箱入りと言う典型的な属性を持った琥珀ですが、コーヒーへの情熱は人一倍です。天然で脇が甘い部分もありますが、特にコーヒーに関する味覚やカン性は優れています。特に魅力的なのがおいしいコーヒーを飲んだときの表情の変化です。コーヒーのおいしさが一目でわかるようにキラキラと輝く笑顔を見せてくれるからです。琥珀がコーヒーを飲むシーンはこのマンガ最大の魅力と言っても過言ではないほど、とても綺麗に描かれています。

コーヒーの味わいの描写に関しては、作者がいかにコーヒー好きであるかがわかるようになっています。ワインやチョコレートの例えでも似た表現が出てくるため、味にうるさい人でもある程度想像できるようになっています。共感できなくても表情でおいしさが伝わる用になっているので、知識が無くても問題がないのもポイントです。コーヒー豆やコーヒーの淹れ方による個性の差も表情に出るため、違いを楽しんでみるのもおすすめです。

キャラクターの立て方がうまいため、琥珀以外のキャラを推しにするのも面白みがあります。ギャル系でイケおじ大好きなミルと、褐色ロリであるモカなど女性キャラでもバリエーションが豊富になっています。ミルは渋くてかっこいいおじさんに目が無いため、別の意味での表情の変化を楽しめます。モカは頭を使うのが苦手で本能で動く部分があるため、小動物的な魅力があります。3人の掛け合いも見所の一つで、美少女が登場するマンガとしても楽しめるのです。

まとめ

コーヒーカンタータはコーヒー中心で世界をデザインするなど、大胆なつくりをしています。その分既存のコーヒー好きが馴染めるかが大きく分かれる作品です。同じコーヒーを扱った萌えまんがでは『カフェちゃんとブレークタイム』がありますが、ファンタジーよりの世界観のコーヒーカンタータと、リアルよりのカフェちゃんとブレークタイムとすみわけがされている形です。もちろん、ストーリー重視か、シチュエーションやお色気トリビア重視かといった違いもあります。

ストーリーと主人公の成長が密接に結びついているため、今後の琥珀の成長が楽しみな作品でもあります。また、学校に通うのが決まったところで2巻に続くため新キャラの追加にも注目が集まります。全体的な完成度は非常に高いため、次巻以降も期待が持てる作品です。ただし、このマンガから学んでコーヒーをうまく淹れるのは難しいため、トリビア的なマンガと考えると若干実用性が薄くなります。あくまで雰囲気を楽しむのがおすすめです。

画力が安定している事もポイントで、女性を魅力的に書く技術も十分にあります。琥珀の表情の変化は特に注目で、萌えまんがとしても通じるだけの魅力が十分にあります。だましあいや裏切りといった要素も皆無なため、安心して読めるのもポイントです。ドラマチックな部分もありますが、どちらかといえば琥珀が天然だからというオチがつくのもポイントです。コーヒーを好きだからほのぼのと読みたい人や、少女たちの掛け合いを楽しみたい人など、様々な読み方で楽しめる本になっているのです。

オススメ度
★★★★★★★★★☆ ★9

月10冊程度、年間100冊超の漫画を読むフリーライター。非定期で友人と百合漫画を語る会を開きますが、ジャンルは不問で何でも読みます。

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