「紅殻のパンドラ」はコミックニュータイプで連載中の六道神士先生による漫画作品で、原案は攻殻機動隊やアップルシードなどで知られる士郎正宗先生が担当している作品です。2016年1月から3月にかけてアニメ化もされました。

作中の時代ではまだ発展途上にある技術「全身義体」の少女、七転福音(ナナコロビ ネネ)を中心に描かれます。物語はネネの日常をメインに進んで行きますが、裏では大人たちが暗躍していたり、時にはバトル要素もあります。

攻殻機動隊やアップルシードといった士郎正宗先生の代表作との関連性を匂わせる描写こそありますが、基本的にはシリアスな雰囲気は薄く、六道神士先生が描く可愛らしいキャラクターの相まって全体的に「明るく楽しい」作品です。

あらすじ

主人公の七転福音は遠縁の親戚に引き取られ、新しい生活を送るために親戚が住んでいるというセナンクル島へ向かう船旅の最中に謎の女性ウザル・デリラと、ウザルが連れていた少女型のアンドロイド、クラリオンに出会います。

船旅を終えてセナンクル島に到着し、改めてウザルとクラリオンに歓迎されるネネ。その後二人と別れ、遠縁の親戚であり自分の引き取ってくれた「オバサマ」の元へと向かいますが、突如都市が崩壊、周囲はパニックに陥ります。

パニックの中、避難する方向とは逆方向に走り去るウザルとクラリオンの二人を見つけたネネは心配になり、二人を追いかけます。そこで、今回のパニックの原因がセナンクル島の地下にある巨大な自律型掘削機「ブエル」の暴走が原因であると知ります。ブエルを止めるために二人に協力することを決めるネネですが…。

感想

可愛らしいキャラクターと世界観が魅力

攻殻機動隊の原作を描いた士郎正宗先生が原案という事もあり、初めての人にはとっつきにくくハードな要素が強い作品かなと思っていましたが、そんなことは全くありませんでした。むしろ、ストーリーはかなり軽い感じに仕上げられていて、展開は早いですがテンポが良いため分かりやすいです。コメディっぽい描写も多く、本当ならシリアスな状況でも急にデフォルメキャラになったりとかなり自由な感じですが、話は脱線せずにしっかり進むため、読み進めやすかったです。

そして、キャラクターがとにかく可愛らしいです。絵を描いているのはエクセル・サーガなどを描いた六道神士先生が担当されていますが、それらの作品と比べると若干スッキリした、最近の流行りに合わせた感じの絵になっています。それがネネやクラリオンの華奢な感じととてもマッチしていて、非常に可愛らしく描かれています。義体の関節部分や首の後ろの接続用のソケットなど、「美少女+機械」といった要素に萌える人には特におすすめです。

そういった可愛らしいキャラクターとは裏腹に、世界観には濃い部分が垣間見えるのもポイントかなと思います。主人公ネネの身体でもある全身義体に始まり、割とあっさり登場する光学迷彩など、原案を担当している士郎正宗先生の代表作「攻殻機動隊」の世界で登場した技術が多数登場しています。そのため、それらの作品を知っていると「ああ、この技術が発達して攻殻機動隊の世界に繋がるのか」という雰囲気がとても良く伝わってきます。

攻殻機動隊のノリで見ると拍子抜けするかも?

原案の士郎正宗先生は、ストーリーの大雑把な流れやキャラの設定しか提示していないため、漫画のノリ自体はどちらかというと作画を担当している六道神士先生の他作品に近い内容になっています。シリアスなシーンでもいきなりギャグ要素が盛り込まれたり、パロネタが豊富に入っているのが特徴になっている他、デフォルメキャラを多用しているなど、ノリは全体的に軽めになっているため、「攻殻機動隊の関連作品」を期待して見ると少し拍子抜けするかなと思います。

1巻ではそれほど多くありませんが、六道神士先生の作品に多いギャグ要素やパロネタはそれなりの数があります。特にパロネタは雑誌掲載時に流行っていたネタが大半を占めるため、単行本で読んでいるとタイムラグを感じる事があるため、気になる人は少し気になるかなと思います。また、他作品やゲームのネタも多いため、そういうネタが苦手な人は読んでいてあまりいい気分がしないという事も多いかもしれません。逆に気にならない人や両方知っている人は、背景に紛れ込んだパロネタを探してみるのも面白いかなと思います。

紅殻のパンドラでは、結構な頻度で登場人物たちがデフォルメされて登場します。特にデフォルメ具合が激しいのがクラリオンで、時折物凄く簡略化されたデザインで描かれている事があります。デフォルメ調の絵も非常に可愛らしいのですが、シリアスなシーンでも普通に登場するので、読んでいて「うーん?」と感じる人も居るかもしれません。1巻では特に後半のブエルを停止させるための戦闘前のブリーフィングのシーンなど、シリアスな中でもデフォルメ版クラリオンが度々登場するため、真面目なシーンはしっかり描いてほしい人にはキツイかもしれません。

他作品の知識を全く知らなくても楽しめる

紅殻のパンドラでは、原案を担当している士郎正宗先生の「攻殻機動隊」や「アップルシード」と同じ世界観をベースとしている事は先にも書きましたが、それらの作品との繋がりを感じさせるワードが多数登場します。代表的な物ではネネの身体である「全身義体」がありますが、それ以外にも1巻ではアップルシードに登場する店の1つ「Boutique崑崙八仙」と関係がありそうな人物「崑崙八仙 拓美」がネネとウザルの会話シーンで少しだけ登場します。

しかし、ではそういった他作品で登場済みのネタについて知っている必要があるか?というとそんなことは全くありませんでした。実際、巻頭に「そんな時代に全く関係ない――」と書かれている通り、ストーリー中の説明で大抵分かるようになっているため、他作品について全く知らない状態でも楽しめる形になっています。あくまでも知っていると少しだけ気が付く点がある、というだけなので、表紙のイラストに惹かれるけど、大丈夫かな、という人でもとっつき易い作品だなと感じました。

とはいえ、知っている人だけが気付くシーンが多数用意されているのも事実です。例えば、全身義体についての説明があるシーンで1コマだけ登場する折り鶴があります。攻殻機動隊を知っている人は義体と折り鶴と聞くだけで「あっ」となる人も多いかと思います。こういった、知っている人は作中に散りばめられた小ネタでより楽しめて、知らない人は作中の説明を読む事で置いてきぼりにならないようにする配慮など、読み手の状況に左右されない作り方はさすがベテランの六道神士先生と士郎正宗先生のタッグだなと思います。

まとめ

という事で、紅殻のパンドラの1巻でした。まだストーリーは始まったばかりで殆どの事が謎に包まれています。主人公のネネについても詳しい事は殆ど分からない状態です。分かっているのは数少ない全身義体の中でも更に珍しい、義体をかなり上手く扱える人間であるという事くらいです。過去についても、セナンクル島に来る以前の事はリハビリをしていたという事くらいしか言及されず、全身義体になった経緯についても触れられてはいないため、今後が楽しみです。

1巻に本編の1~4話と一緒に、巻末のオマケとして「なにかで配信 パンドラジオ」という4コマ漫画がセットになっています。こちらは本編と違う終始デフォルメされたキャラクターで進む緩い感じの漫画になっています。また、1巻の巻末にあるオマケではセナンクル島の大まかな地理や設定の他、士郎正宗先生が紅殻のパンドラについてなぜ自分で漫画を描かなかったのかについても解説しているため、併せて読んでみるといいかもしれません。

原案担当の士郎正宗先生、漫画担当の六道神士先生はいずれも長く作品を作られている方なので設定や絵はかなり安定していて、バトルシーンやサイバー描写でも気になる事は殆ど無く安心して読むことが出来ます。可愛いらしい女の子の穏やかな日常を読みたいという人には合わないかもしれませんが、サイバーな描写やメカ、銃器も好きという人にはおすすめの作品です。特に表紙の肌色成分が若干多めの義体状態のネネに惹かれる、という人はぜひ読んで欲しいです。

オススメ度
★★★★★★★★☆☆ ★8