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地獄の釜の蓋を開けろ~マビノギオン偽典~(1) (角川コミックス・エース)

中世イギリスを舞台にしたダークファンタジーとか言われると心が動きませんか? 私はグッときます。『地獄の釜の蓋を開けろ~マビノギオン偽典~』は12世紀のイングランドを舞台にしたダークファンタジーで、タイトルの時点で中二心をつかまれる人も多いのではないでしょうか?

現実世界を舞台にしたダークファンタジーになると、当時の生活の様子や、様々な豆知識も手にはいるのも魅力の一つです。一方でリアリティと虚構をどの程度のバランスで成り立たせるかも重要で、作品の魅力に大きく関わるポイントになっています。

『地獄の釜の蓋を開けろ~マビノギオン偽典~』は中世の迷信や様々な誤解を巧みに生かしているのが特徴です。中世の知識がある人がニヤリとするような描写も多く、学び始めた人も納得するような知識があちこちに織り込まれています。もちろん、美少女も出ますよ。

あらすじ

舞台は1193年のイングランド。グウィンはユダヤ人でありながら宗教弾圧を一人生き残り、墓堀り人として暮らしていました。しかし、ある日罪を犯した娼婦の遺体を協会の傍に埋めたことから、町の人間から追われることになってしまいます。

グウィンが命の危機に陥った際、その血が泡立ち、中から裸の美少女が現れます。少女は死者をよみがえらせる『再生の大釜』を名乗り、グィンを王子と呼んで慕うことになります。

グウィンは少女を悪魔だと認識しますが、『再生の大釜』が登場したことによりグウィンだけでなく街の人間たちの怪我も治るなどある種の『奇跡』が起こります。そして、奇跡の力に目標を定めた町の人間たちにグウィンは再び狙われることになるのです。

感想

裸の美少女に迫られても完全に悪魔扱いなのが泣ける

裸の美少女に迫られたらラッキーと思うのが男の本能だと思うのですが、「これは罠なのでは?」と思う人も少なからず存在します。主人公グウィンもラッキーと思うよりも疑うタイプで、時代背景上『再生の大釜』を悪魔だと思い込んでしまうのがポイントになります。

読者がもったいないと思っても、グウィンは宗教弾圧と虐殺を生き残った人間であり筋金入りの人間不信です。周りから差別を続けられているため悪魔に呪われるような存在だと思いこんでいるのもポイントで、ラッキースケベ度が一気に下降してしまうのです。

真面目な中世にはファンタジー小説やアニメやマンガといった娯楽がなく、ラッキースケベを受け入れる素地すらない。そんな悲しいリアリティを突きつけてくるのがこのマンガの特徴です。だからこそ、『再生の大釜』とどのように関係が深まっていくのかが気になるのです。

ヒロインは釜なので歩けません!

本作のヒロインになるのが『再生の大釜』で見た目は美少女です。裸で登場しますが服装は自由自在で、古代ローマの王族で流行した服を知っているなど時代と感覚のズレを垣間見ることができます。

そして、『再生の大釜』の最大の特徴は、死者を蘇らせる以外の何もできないことにあります。登場するだけで周囲にいる人間の傷を治すなど特殊な能力はあります。しかし、本人(?)は死者を蘇らせる以外に力を振るう意志がなく、他の物事に対しては徹底的なやる気の無さを貫いているのです。

どれくらいやる気が無いかといえば、歩くのも嫌がるほどです。人間の姿をしていても釜は釜。歩かないのが自然です。グウィンもそのやる気の無さに付き合うしかないのがポイントで、結局釜は持ち運ばれて移動することになるのです。

中世の豆知識が随所に出てくるのもポイント

『地獄の釜の蓋を開けろ~マビノギオン偽典~』の魅力になっているのが時代背景を生かした描写です。幕間に職業紹介などが入る他、本編にも中世あるあるの情報が出てきます。どんなきっかけでありがちな迷信が生まれたかを理解するポイントにもなっているのです。

中でも印象的なのが、作中の墓の表現です。グウィンは墓掘りであり、自分の仕事に誇りを持つと同時に様々な工夫を凝らしています。一方で、素人の作る墓のお粗末さについて愚痴るシーンも用意されているのです。

墓はただ掘れば良いわけではなく、土の質や水はけを考えなければ表面の土が流されるなど問題が生じます。結果として、死体が露出してしまい、「死者が蘇った」などという騒動が起きることがあるのです。墓堀りに依頼するお金をケチる人が多いということや、教育でノウハウを共有するということが難しかったという問題も浮き彫りにしているのです。

まとめ

『地獄の釜の蓋を開けろ~マビノギオン偽典~』は裸の美少女が登場するのにトキメキが一切存在しないという、若干特殊な作品になっています。ただし、ギリギリの部分を攻めるような構図が多数存在し、見えそうで見えないなど工夫も加えられています。

中世ヨーロッパの知識、特に十字軍遠征時のイングランドがどんな状況だったか知りたい人にはおすすめで、暗黒時代とも呼ばれる理由も垣間見ることができます。

「この展開でハッピーエンドが考えられるのか?」「そもそもグウィンは何者?」など、伏線が複数張り巡らされているのもポイントで、展開が気になる作品の一つになっています。グウィンが再生の大釜を女の子として扱う日が来るのかも気になるところです。

月10冊程度、年間100冊超の漫画を読むフリーライター。非定期で友人と百合漫画を語る会を開きますが、ジャンルは不問で何でも読みます。

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